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甦れ(2回)8X コンデンサースピーカー(2)SR-1との出会い [甦れSTAX ELS-8X コンデンサースピーカ]

今日の日記は、瀕死の8Xを「いつの日にか」、と思い続けたこだわりの源泉と、今後綴っていく修復日記の伏線になるようなエピソードについて記します。

■SR-1との出会い
若者の足なら、STAX本社の館、現在の東京都有形文化財「雑司が谷旧宣教師館」まで歩くのは、わけもない距離である。
JR池袋駅から南東に、徒歩で10分もかからない。
しかし微かな記憶には、国電池袋駅から路面電車に乗ったような情景が浮かぶ。
多分そうだったのだろう。
田舎から出てきて日も浅く、地理に不案内な学生である。
都電(路面電車)で行けば迷わない、と誰かに言われてそうしたのかもしれない。

STAX本社を訪問した目的は、イヤースピーカーSR-1と、イヤースピーカー用アダプターSRD-3の購入であった。
自分が請うたのか、あるいはご好意だったのか覚えていないが、そのとき試聴ルームに案内され、フルレンジ・コンデンサースピーカーESS-6A(であったはず)を聞かせていただいた。
これが当ブログ表紙冒頭の「私はこの館で音の洗礼を受けた・・・」のシーンである。
ESS-6Aが奏でる音楽。
その未体験の音響は、一生忘れることのない感動を残した。
そしてそのとき購入したSR-1
これがその後、私の耳に「オーディオを聴く際の音の基準」を形づくることになる。
つまり私が歩いてきた「オーディオの道」を遡れば、源流は池袋の雑司が谷にある旧宣教師館に行き着く。

(写真はすべて拡大できます)
学生時代のオーディオシステムL(ト済).jpg


<写真1:これ1枚しかない学生時代のオーディオ装置>
**古くなれば本当にセピア色になるんですね**




写真は、機器の揃い具合から、学生時代の終わり頃のものだろう。
STAX SR-1はスネかじりであったが、レコードプレーヤーなどは自前である。
SR-1はトリオのアンプ類の下の戸棚の中に見える)。
当時、春休みや夏休みなどに帰省して、浜松の日本楽器(YAMAHA)で高額報酬のバイトをやらせていただいた。
あの頃、浜松の日本楽器は、オーディオ評論などで高名な青木周三氏を招いて、レコード
コンサートなどを定期的に催し、地方のオーディオ文化の発展や啓蒙に貢献していた。
浜松城公園に近い公会堂(?)で催された夜のレコードコンサートに、担当の綺麗なお姉さんに誘われてついて行ったことなど、とてもリアルに甦ってくる。
大通りの四つ角に面した店舗には、高級オーディオのフロアもあり、写真のレコードプレーヤーはそこで調達した。
アームはSTAX UA-7、ターンテーブルはSONY TTS-3000、カートリッジはFidelity-ResearchのFR-1とそのヘッドアンプFTR-2
スピーカーは三菱ダイヤトーンP-610xx(続くサフィックスは覚えていない)を、その標準箱もどきに入れている。
ツイーターは当時のボクらの大定番、大ベストセラー、驚異の価格/性能比、Technics 5HH17
この1枚の写真だけで、一冊の物語になるほどの思い出が湧いてくる。

バイトに通っていた時、浜松駅近くの新幹線ガード下あたりに「ナルダン」という喫茶店があり、そこのご主人に、いろいろとお世話になった。
ありがとうございました。
様々な思い出が甦る「これ1枚だけ」の写真である。

SR-1をめぐる高城重躬先生とSTAX社員との逸話
イヤースピーカーSR-1にはいろいろなエピソードがある。
ある日、高城重躬先生宅にSTAXの技術者ら数人が訪れた。
先生は悪戯に、氏のマルチチャンネル・システムの各帯域のアッテネータを少しズラして、「君たち、これを調整してバランスのいい音にしてごらん」と促した。
結局彼らは悪戦苦闘の末、僅かの違いを残して、元に近い状態に戻してしまった。
先生はこのことの講評に、「普段、イヤースピーカーを聴いている彼らの耳が、よく訓練されているからだろう」とおっしゃったという。
古いオーディオファイル諸兄の間では、伝説の逸話である。
私のオーディオは、形あるものも、ないものも、すべてにこの話のエッセンスが溶け込んでいるように思う。

さて、私のイヤースピーカーSR-1と、イヤースピーカー用アダプターSRD-3は、今どこにあるのだろう。
私自身が育て親を捨てることなどあり得ないので、屋根裏のダンボール箱のどこかに眠っているはずである。
発見できたら、その音を聴いてみたい。
耳パッドは元々ダメになっていたが、たぶん鳴ると思う。
「私の基準」を育んだ音をもう一度聴きたい。


■STAXもう一つの傑作はSR-001
SR-1はその後、改良された新モデルが次々と出て今日に至っている。
私もその間、Lambda Nova Signatureなど2種類ほどのイヤースピーカーを買い替え、ドライバーユニットSRM-T1とともに所持している。
SR-1を原型として、現在の最新鋭モデルまでの変遷は、時代とともに進化を重ねてきたものであり、当然の流れである。
しかしSR-001は、その流れとちょっと違う。
コンセプトが全然違う、と言ってもいい。
従来のAC電源が必要なイヤースピーカー用アダプターを、乾電池で動作するポータブルにした。
従来のイヤースピーカーを何十分の一程度に小型化した。
STAX工業株式会社から今日の有限会社STAXに至るまで、世に送り出した製品で、他社が追従できない画期的な傑作が3つある。
他にも評価すべき意欲作はいくつかあるが、代表すればこの3つだろう。

1.コンデンサー型イヤースピーカー
2.フルレンジ・コンデンサースピーカー
3.コンデンサー型の超小型イン・ザ・イヤースピーカー・システム

私はこの「3.」の初代機SR-001を手にしたとき、本当に凄いものを開発したと感嘆した。
これ、嘘ではなく本当にコンデンサー型ですよ。
その当時私は、ウォークマンのたぐいのヘッドフォン・ステレオに、SONYのNT-1NT-2を使っていた。
iPodが出現する前の話である。
NT-1/2は、切手大のデジタル・マイクロカセットを記録メディアとするデジタルレコーダーである。
サンプリング周波数32KHz、量子化ビット数 12bit折線(17bit相当)、圧縮方式 ADPCMのデジタル信号を、幅僅か2.5mmのテープにヘリカルスキャンで記録・再生する。
もっともSONYらしい、宝石のような、輝けるSONY製品の一つである。
当時、このNT-1NT-2のすばらしい音質に応えられるヘッドフォンは皆無であった。
SR-001を使ってみた。
感激!。
音全体はイヤースピーカーを踏襲しているが、まず低音に驚かされる。
SR-001の低音は、他社の如何なるヘッドフォンより深くて生々しい。
この音を外に持っていける!。
私は写真2の「お出かけセット」を、通勤や出張、旅行などに離さず持ち歩いた。
そしてウォークマン型の終焉。
本来ならばSONYが出して然るべき、また出せる可能性があったにもかかわらず、iPodは門外漢のAppleから出た。
それから通常タイプのイヤフォンの高音質化競争が始まった。
私の「お出かけセット」もiPodになった。
しかしSR-001を原型とする、携帯できるイン・ザ・イヤースピーカー・システムは、イヤースピーカーとともに、世界に誇る傑作であると確信している。
(アダプターの側面に付いているライン入力ジャックは、その取り付け場所が悪く、じゃまになって使いにくい。しょうがないので、その脇に穴を開け、ラインケーブルを直付けした)

SR-001(縮小)DSC_7091.jpg



<写真2:SR-001NT-2。iPod出現前の私の携帯オーディオシステム>





■8X修復の手掛かりなし
さて8X修復の話であるが、情報はまったくない。
英国QUADのESLESL-63系に関するrepair記事は、具体的かつ詳細なものが山ほど出てくる。
しかしSTAXのコンデンサースピーカーの内部構造や、修理に関する情報はネット上のどこを探しても出てこない。
ただ1つ、8Xの高圧電源部の修理を、絶縁ワックスをドライヤーで融かして行ったという国内記事があった。
高電圧発生回路は、4段のコッククロフト回路、とある。
具体的記述はそれのみであるが、確かにそのとおりであった。
当ブログの「i氏山荘訪遊記(第2話)」の「かえるの息子」が入手した8Xの修理の際、目視できるダイオードの結線状況から推測し、彼が回路図を書き起こした。
この話は次の日記で綴りたい。

新8X高圧電源部全景(済).jpg



<写真3:「かえるの息子」の8Xの高圧電源部(修理前)>
**電源トランスと4個のコンデンサーが入った小部屋が、絶縁ワックスで充填されている。それらの一部が透けて見える。不良コンデンサーを交換するには、この大量の蝋をかき出さねばならない。さてどうすれば・・。左上の基板上の抵抗素子のアレイは、私の8Xより一つほど古いバージョンの仕様を示す**









STAXカタログ内部構造(縮小ト済).jpg




<写真4:STAXのコンデンサースピーカーのカタログの一部分>
**発音ユニットの基本構造が描かれている**







発音ユニットの構造はカタログの模式図のみ
発音ユニットを分解する前に、その構造を知る必要がある。
構造が分からないまま、手荒なことはできない。
致命的なダメージを与えたら、はいそれまでよ、になる。
しかし、喉から手が出るほど欲しかった発音ユニットに関する具体的情報は皆無であった。
唯一、STAXのコンデンサースピーカーのカタログに、発音ユニットの内部構造の簡略スケッチがあった。
基本構造は正しく描かれているが、修復工作に最も重要な部分が省略されている。
でもこの図が、構造を推理するための大きな手掛かりとなった。

これらは次回以降の日記に順次綴っていこうと思います。

(第2話 おわり)
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コメント 2

kotikoti

AudioSpatialさん、ブログ開設おめでとうございます。
コメント送信/返信のテスト文です。
by kotikoti (2013-10-26 20:26) 

AudioSpatial

kotikotiさん、ありがとうございました。
涼しくなったので、いよいよSR-507(でしたか?)の出番ですね。
以上、コメント返信テスト文です。
by AudioSpatial (2013-10-26 21:17) 

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