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甦れ(4回)8X コンデンサースピーカー成功!発音ユニットの分解 [甦れSTAX ELS-8X コンデンサースピーカ]

今日の日記は、8Xの発音ユニットの構造を、文字通り「開」「示」します。
STAX ELS-8X修復の基礎データーとなる核心部分です。
魚ではあるまいし、ですが、本当に「二枚おろし」に開いてしまいました。
発音ユニットの修復作業には、さらに「三枚おろし」にしなければなりません。
三枚の話は後日として、私、釣りはやらないし、魚、もちろんさばけないです・・。


すみません、またちょっと脇道・迷い道ですが、8Xに関連ありなので・・・

射程70m、8Xで那須与一が今に甦る
吉祥寺駅前の大道芸
10年ほど前の吉祥寺の駅前。
買い物をしての帰り道であった。
人だかりの輪の中から、ペンペン、ジャランジャランと三味線のような音が聞こえてきた。
けっこう激しく演っている。
輪の隙間から潜り込んで少し近づく。
芸人風の三味線弾きが、津軽三味線ぽい演奏を演っている。
ちょうど佳境に入ったのか、強烈な音と激しいリズムが盛り上がり、そして万華鏡のような音色の変化に続く。

足がすくんで動けない。
一挺の三味線の、大オーケストラを凌ぐダイナミズム。
まさに圧巻の「音」と「音楽」であった。
「道端の芸」でさえ、これほどまでに人を感動させる。

最初に「音」ありき。
まず「音」。
そしてその「音色」や「響き」があり、「拍子」、「旋律」、「和声」などは、そのあとの話。
昨今、音楽とは、どうやらそういうものではないかと思うようになった。

続く話は今日の日記の後半で・・。



(写真はすべて拡大できます)
左右裏アップ(縮小ト済).jpg




<写真1:向かって右側の本体から高域発音ユニットを取り外したところ>
**不完全ながら、鳴らしながら修復作業を行ったので、ダミーの板をはめてある。修復したユニットが、一つ、また一つと増えるごとに、加速度的に音がよくなっていった**







8Xの発音ユニットの取り外し
8Xの発音ユニットを本体から取り外そう。
それぞれの発音ユニットは、その両脇をアルミチャンネルの棒で押さえられている。
アルミチャンネルとは、断面が「コ」の字形のアルミの棒であり、8Xに使われているものは、「コ」の字の中にピッタリと木材の角棒が埋め込まれている。
発音ユニットを取り外すには、該当するアルミチャンネルを固定している木ネジを外すだけでよい。

STAXカタログ原理(縮小ト済).jpg




<写真2:STAXのカタログに載っている発音ユニットの電極端子の状況>
**3つの小丸が端子。甦れ8X(2)で紹介したカタログの絵を拡大したもの。**





元ユニット電極部(縮小ト済)DSC_6067.jpg


<写真3:高域発音ユニットの電極端子部分>
**中央上のポリカーボネイト製のビスで留めてある端子と、その真裏の同端子が固定極の端子。ユニット右端の上に突き出た端子が振動膜の端子**






発音ユニットの電極端子
再三お知らせしていますがSTAX ELS-8Xは、電源ケーブルを外しても、場合によっては数日間、高電圧がチャージされている場合があります。
4000V(4KV)近くの高い電圧ですので、感電した場合は人命にかかわります。
この方面の知識と経験がない方は、けっして裏ぶたを開けないよう、お願いいたします。

さて、アルミチャンネルを外したら、発音ユニットの電極端子にハンダ付けされている3本のリード線を取り外す(2本は、アルミチャンネルを外す前に取り外しておくほうがよい)。
各端子の状況は写真1、2、のとおり。
ハンダの融けた雫が、発音ユニットにかからないよう、細心の注意で作業する。
3つの端子のリード線を外せば、発音ユニットを本体外に取り出すことができる。
発音ユニットの側面全部(四面)は、軟らかな蝋でコーティングされているが、この蝋は後で取り除くことになる。
実はこの蝋、極めて重要な役目を果たしている。
その話は最重要事項の一つでもあり、後日の日記に改めて綴りたい。

発音ユニットの構造を推理する
STAX ELS-8Xは受注生産品であり、同じ形の各部品を、何千・何万個と作って組み立てたものではない。
なので、ロットにより時期により、構造や寸法が少々異なるかもしれない。
まずこのことが前提であることをご理解いただきたい。

STAXカタログのユニット内部構造(ト済).jpg

<写真4:STAXのカタログに載っている発音ユニットの構造>
**甦れ8X(2)で紹介したカタログの絵を拡大したもの。**



カタログのこの絵、概略図としては分かりやすく描けている。
私もこの絵から、発音ユニットを分解するための重要なヒントを得た。
まずはこの絵をよーくご覧いただき、基本的な構造の成り立ちを頭に入れておく。
そして続く写真を詳細に観察すると、まあだいたい「こんなことだろう」というイメージが湧いてくると思う。

元ユニット端側面(縮小ト済)DSC_6671W.jpg


<写真:5高域発音ユニットの上部の側面>




この側面をよく観察すると、全部で6層あるように見える。
茶色のベークライトが2層+白い塩ビ(実は透明)が2層+茶色のベークライトが2層である。
右手に見える、貼り付けてあるようなチップは、たぶん各層が剥がれないように補強するためのものか。
このチップは側面の数個所に接着されている。
側面の蝋のコーティングを除去すれば分かりやすくなるのだが、残念ながらその写真を撮ってない。

元ユニット角の2面(縮小ト済)DSC_6102T.jpg




<写真6:高域発音ユニットの下部の角付近>
**この写真は、各層が鮮明ではないが、全体の状況を観察していただきたい**








発音ユニットを魚のごとく「二枚おろし」にする
さて、発音ユニットの基本構造がおぼろげに見えてきたとしよう。
真ん中から2つに割っても大丈夫そうだ。
次の目標は、このユニットを「二枚おろし」のように、真半分に割りたい。
見た目では、各層がしっかり接着されていて、いずれの層も分割できそうにない。
いろいろと苦慮した。
真ん中の透明な層(白く見えるが)は、アクリルか何かだろう。
そこを「発泡スチロール・カッター」のような電熱線で、鋸を挽くように融かしていったらどうだろう。
ベークライトは熱に強いから、透明層だけ融けるはずだ。
最悪、電動工具で切断か。
などなど1・2日悩んだ。

元ユニット二枚おろし(縮小ト済)DSC_6533.jpg

<写真7:真半分に「二枚おろし」した発音ユニット>
**上側に元の振動膜が付いている**






あっけないほど簡単だった「二枚おろし」
「二枚おろし」は超簡単だった。
まず、「補強チップ」は削り取っておく。
透明の層は、ベークライトとの接着面も、透明同士の接着面も、カッターナイフの刃をうまく入れると、パリパリと接着面に沿ってきれいに剥がれた。
魚をおろすのにコツがいるのと同様、カッターナイフの刃をうまく入れるのもコツがいる。
また、刃を深く入れすぎると、パンチングメタルを傷つけるので注意が必要である。
この思ってもいなかった「幸運」は、たぶん、20数年経たことによる接着剤の劣化ではないかと思う。
接着剤は、見た目や、硬さの感じから推測すると、おそらくエポキシ系だろう。
そして透明の部分は、硬さからアクリルではなく塩ビ(塩化ビニール)だろう。
ベークライトと塩ビとの、接着剤の親和性があまりよくなかったのかもしれない。
その一方、ベークライトのベースと、同じベークライトのバーとは、完全に一体になったように強固に接着されており、カッターの刃など、まったく受け付けない。
たぶん同じ接着剤であるが、材質によって接着力に大きな違いがあるようだ。

いずれにしろ発音ユニットは、みごとに、本当にみごとに「二枚おろし」になった。
やった、ヤッター!。
この時点で、この先も「やれそうだ!」と明るい目標が定まった気がした。
人の人生に、そう多くはないであろう「大きな喜び」の一つに数えてもいいほどのうれしさであった(他愛もないものに・・であるが)。


元ユニット内面フィルム付(縮小)DSC_6546.jpg


<写真8:高域発音ユニットを「二枚におろした」片側の内面>






元の振動膜が残っている側。透明なのでよく判別できないが、ななめのに走る反射光でかろうじてフィルムの存在が分かる。
ベークライトの基盤(ベース)、ベークライトのバー、塩ビのバー、パンチングメタルなどの位置と相互の関係をよーく観察していただきたい。
外枠の上下の穴は、分解前にあけたもの。
この穴は再組み立て時に必要となるが、今回は触れない。


核心!発音ユニットの基本構造
写真3~6をよく観察すれば、おおよその構造は推測できる。
実際の発音ユニットの基本構造と、各部の「アバウトな寸法」は、図1のようになっていた。
図のイメージは、全域および低域の発音ユニットのものであるが、高域ユニットも基本は同じである。
ただし高域ユニットのパンチングメタルは、両端の形が半円ではなく、角を丸めた「角」である(ベースの開口部は半円形)。

なお、パンチングメタルの厚さは、U字アームを持ったマイクロメーターのようなものを持っていないので測定できていない。
が、甦れ8Xの初回で指摘した、「ギャップが狭いという他のESLとの大きな違い」が、この図で分かると思う。

発音ユニット図面(B5jpeg).jpg




<図1:発音ユニットの基本構造図>







さてさて構造が判明したまでは、うますぎる展開でした。
あとは工夫次第、アイデア次第、やる気次第ですが、この後のアイデアを搾り出すには、かなりの体力を消耗することになりました。



本通りから、再び脇道に入りますが、お付き合い願えれば幸甚です。

那須与一CD(縮小ト済).jpg

<写真9:CD「琵琶 中村鶴城 平家物語をうたふ」>
**私の愛聴盤50選(があるとすれば)のなかの一枚**




和楽器の再生も大得意の8X
8Xで聴く平家物語。
那須与一の緊迫のシーンが、目の前でリアルに展開される。
終わった後、しばらく動けない。
こんなもの、爺様しか聴かない、と思っていたが、とんでもなく現代的であった。
この演奏家の琵琶、超現代的だと思う。
CD、「琵琶 中村鶴城 平家物語をうたふ」。

地下鉄神谷町駅から虎ノ門へ向かって、大通りを少し行って右に折れたあたりに、琵琶の製作工房がある。
そう、和楽器の本物の琵琶、非常にめずらしいが都心にある。
以前、会社の別館が近くにあったので、ときどき覗いて見学した。
理由は聞かなかったが、その工房に中村鶴城のCDが何種類か置いてあった。
売り物だというので、数枚求めた。
10数年前のことである。

那須与一の扇までの射程距離70m
このCDの中の「那須与一」、だれもが知っている物語。
源平合戦のさなか、一艘の小船の上に、うら若き乙女が扇をかざした竿を持って立つ。
この扇、みごと射てみよ、という挑発というか、誘いである。
周りの者から射手に推薦された「下野国の住人、那須太郎資高が子にて、那須与一宗高」が、義経の命を受け、命を懸けて挑む感動の物語である。
馬上、距離を縮めるために海に入っても、扇までの距離が「7段」(約77m)あるように見えたという。
物語の脚色を勘案して50mとしても、揺れる船、自分は海中で足掻く駒の上、風もあったというから、どだい無茶な話である。
オリンピックのメダリスト、「中年の星」といわれた山本博選手の現代の弓矢でも、100に1つもダメなのでは、と思う。

琵琶の強音でスピーカーのボイスコイルが飛ぶ
この物語を、薩摩琵琶の名手、中村鶴城が演じている。
圧巻である。
それまでは平家物語の琵琶、総じて私には聴いていられなかった。
ひどくつまらない。
それを中村鶴城の演奏が、琵琶という楽器の印象を180度ひっくり返してしまった。
この楽器から出る音の、あらゆる可能性を「使い倒す」ような奏法である。
この楽器、凄まじくダイナミックな楽器である。
撥弦楽器でこれに匹敵するものはおそらくないだろう。
弦を撥(ばち)で強打するフルパワーの一撃は、スピーカーのボイスコイルが飛び(焼け切れること)、コンデンサースピーカーの振動膜が裂ける。
その恐怖が伴うほどの衝撃音が鼓膜を刺す。
この楽器、出せる音の幅(音程のことではない)がとても広く多彩である。
演奏法も「多芸」である。

こういったパルス的な大衝撃音も、8Xは易々と平気でこなす。
ついでにいえば、8Xによる篠笛もたまらなくいい。
篠笛の、歌口を切る空気流の雑音を伴った音色の魅力など、苦もなく再現する。
篠笛は日本独自の「庶民の笛」であり、何の付属物もない竹筒1本の簡素な横笛である。
そこに篠笛の、単純のようで深みのある音色の妙があるのだろう。


修復した8Xで繰り広げられる源平絵巻。
与一が、騒ぐ海が、足掻く駒が、折れんばかりに引き絞られた弓弦(ゆんづる)が<このシーン、琵琶の弦を撥で強くしごいてその効果音を出す>、唸りを曳いて扇に吸い込まれる鏑矢(かぶらや)が、超現実映像のように目の前に広がる。

8Xはそういう世界に連れて行ってくれる音のリプロデューサなのです。


(甦れ8X(第4話)成功!発音ユニット「二枚おろし」 おわり)
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升金 勲

貴ブログ拝見しました。8Xという私には初めての情報。分からないながら最後まで読みましたが、全然わからない。凄いことをやっているんですね。音が録音され、それがCDになり、再生プロセスを経て耳に入る。「生」の音が諸々のキカイを通してニンゲンの耳に入るのに、絶対に「生」は再現されないものだと、以前から信じていました。だから、よく言われる「CDを10枚買うなら1回でもライブに行きなさい」という言葉に同調していました。8Xというのは、それほどに再現性がいいんですね。
話は変わりますが、15,6年前、タイガーウッズが鹿児島に来て「カシオワールド」に出場した際、大枚1万円を払って見に行ったことがありました。彼のドライバーショットの「音」のすごさに強いインパクトを受けました。あの音はテレビ中継などでは絶対に再現できませんね。なんというか、空気を切り裂くような「ソニックフォーン」とでもいうのでしょうか。「ピシュッ」というか、とても文字では表現できません。勿論中継のマイクでは集音できないし、諸々のキカイを通り、電波に乗せて家庭まで届けることなど不可能です。それほど彼のドライバーの「初速」は桁外れだったのだと感じました。1万円で体験できたことはまさに僥倖でした。
貴兄の音に対する博学で解説して教えてください。
by 升金 勲 (2013-11-21 10:59) 

AudioSpatial

升金さま。ご訪問ありがとうございます。
すみません。内容が今流にいう「コアなもの」なので(マニアックすぎるものなので)、申し訳ないです。
「8X」というのは、過去、スタックス工業株式会社(同名の株式会社は今はない)が製作販売したESL-8Xという「コンデンサー型」のスピーカーです。
今現在、オーディオ愛好家が使っているスピーカーの、音を発生させる原理の違いによる種類には、つぎのようなものがあります。
①ボイスコイルによるフレミング右手の法則型(一般的なSPがこれ。コーン型とホーン型がある)
②リボンによるフレミング右手の法則型(RCAのマイク、美空ひばり伝説の「77DX」の逆の原理です)
③マグネプレーナー型(フレミング右手の法則型ではあるが、振動板は平面フィルムです)
④コンデンサー型(磁石の力を使わない。文具の下敷きなどをこすると、ちぎった紙片がくっつく、あの静電気の力の応用です)
⑤イオン型(こんなのも実際にあります。空気をイオン化して、そのイオンをクーロン力で直接駆動します)
とまあ、代表的にはこんなところです。
8Xは④に当たります。④と⑤は、空気を動かす仕掛けの重さが飛びぬけて軽い、ところがミソです。
⑤などはその極端な例で、「動かす物」がなく、空気を直接動かします。
④⑤の力はクーロン力なので、①~③の磁石の力に比べて段違いに小さい、という問題があります。
8Xなどは、そこをいろいろ工夫して、「琵琶の強音」も再生できるようになっています。
⑤は高音専用のツイターしか実用機はありません。
どの世界にも、目的のためには、いろんな仕掛けを考え出しますね。
ゴルフのクラブの作りなど、スピーカーの比ではないですよね。たぶん。
続きは改めまして。
ありがとうございました。
by AudioSpatial (2013-11-22 03:17) 

AudioSpatial

升金さま。先ほどの私の返信、ちょっと訂正です。
総体的な意味で「フレミング右手の法則」と書きましたが、より正確には、「左手」の法則、の方が適切です。
「右手」:導体が動いて、電気が発生する。
「左手」:導体に電気が流れて、力が発生する。
といった違いです。
すみません。
またいろいろと、コメントいただければうれしいです。
by AudioSpatial (2013-11-22 09:45) 

人形町

張り替え成功だけではなく
できれば測定をしていただきたいです。
STAXが認めてくれる性能が確保されているか。
by 人形町 (2014-06-30 13:13) 

AudioSpatial

人形町さん、ご訪問ありがとうございます。
申し訳ありませんが、おっしゃっておられる趣旨が、よく理解できません。この8Xを製造した「STAX工業株式会社」は、すでにこの世になく、残念ながら聴いてもらいたくても、その望みは叶いません。できることなら、ぜひとも当時お世話になったSTAXの方々に聴いていただきたいところです。また、メーカーが認める/認めないは、私の道楽には何の関係もありません。蛇足ですが、8X完全オリジナルの完動品が、隣の部屋で鳴っております(ブログにその記事あり)。
さらに測定の件ですが、その必要性を私は感じておりません。訓練された耳は、測定器以上の性能を持っていると思っております。音響のハイエンド付近の領域に、一般的な測定器は役に立たないとも思っています。あくまで、ただのオーディオ道楽のことですから、そこのご理解を、よろしくお願いいたします。
by AudioSpatial (2014-06-30 14:40) 

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