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コンポ(3の1)ALTEC MODEL-19編/愛用スピーカーたちの横顔 [オーディオルームのコンポーネントたち]


今日は「これ」を聴きたい気分
今日の日記は、私のオーディオ部屋のスピーカーたちについて綴ろうと思います。
さて今、何を聴きたい気分ですか?
音楽が、人の感性や感受性の上に成り立つものである以上、そのときの心の状態によって、聴きたい曲や種類などは、あれこれと揺れ動きます。
音楽など聴きたくもない、といった時期が長く続くこともあるし、逆に寸暇を惜しんで「あれを聴きたい」と、何か特定のものを憑かれたように聴きまくることもあるでしょう。



*平面3種+ALTEC_DSC_9555.jpg*平面3種DSC_9594.jpg

                  <写真1:オーディオ部屋の愛用スピーカーたち>
**左右端・ALTEC MODEL 19、中央最背後・STAX ELS-8Xコンデンサースピーカー、黒い平面・MAGNEPAN MG1.7マグネプレーナー型、白い平面・MAGNEPAN SMGa同、の各愛用スピーカーたち**



今日のスピーカーは「あれ」でアンプは「これ」
音楽の歴史は、いわゆる「古楽」以降に限定しても長い歴史があり、ジャンルは3次元的全方位に広がっています。
そのときの気分と、聴きたい音楽。
それに応えるには、「音の出方や鳴り方」が異なる複数のメインアンプと、複数のスピーカーの組み合わせを選びたくなります。
そのためには簡単な操作で、任意の組み合わせが選択できるようにしておけばいいだろう。
と、そんな考えで、私の広くもないオーディオ部屋には、平面型や箱型など複数のスピーカーと、管球式や半導体式の複数のメインアンプを押し込めてあります。
そしてオーディオシステムとして、それらを任意に組み合わせて鳴らすことができるような仕掛けをして(大変わかりやすい原始的な方法ですが)とっ替えひっ替え楽しんでいる次第です。
(実際の配置は、聴くためのスピーカーを前に出し、鳴らさないスピーカーは背後の壁に押し付けておきます。そのため、各スピーカーは、押せば床を滑るようになっています)

そういったスピーカーシステムの中で、今日の日記は、ALTECの数多(あまた)の銘器の中で、意外に知られていない傑作ホームスピーカーシステム「MODEL 19」にスポットライトを当ててみたいと思います。




意外に知られざる傑作機 ALTEC(アルテック)MODEL 19

これは本当に素晴らしいスピーカーシステムである。
家庭用として、音響的に第1級品であり、それもハイエンドに属するクオリティーだと思う。
このMODEL 19と出会えて、この上もない幸せであるが、ほんの少し状況が違えば、このスピーカーと生涯出会うことがなかったかもしれない。
「怪我の功名」とは、このことだろう。

「怪我」とはSTAXのコンデンサースピーカーのことである。
過去・現在を通して、臨場感溢れる超1級の再生音と、作りの精緻さを備えた唯一無二の貴重なスピーカー。
そのELS-8Xを、不用意な環境と使い方で劣化させてしまった愚かな私。
その代替え機種として選んだのが、この1976年(昭和51年)に発売されたALTEC MODEL 19である。
写真2のような上下2つの箱に、416-8B(38cmウーハー)と、811B(セクトラルホーン)+802-8G(タンジェリン・フェイズプラグ・ドラーバー)を組み込んだ2Way。
箱は上下が分離しているように見えるが、内部は空洞でつながっている。



*19+NS1ネット_DSC_9712.jpg*19+NS1_DSC_9724.jpg
*19+NS1ネット正面DSC_9740.jpg*19+NS1正面_DSC_9726.jpg

                 <写真2:ALTEC MODEL 19とYAMAHA NS-1>
**MODEL 19は1976年、今から40年近い昔に登場したものであるが、なかなか現代的なデザインであり古さを感じさせない。格好がよく、部屋に置く喜びを感じるほどの存在感がある。右脇のNS-1については次回(このNS-1、本当は右側のものでした。スミマセン)**


2Wayであるが高域はタンジェリン・フェイズプラグでカバー
MODEL 19は、ホーンのドライバーを、タンジェリン・フェイズプラグ(写真3)を採用することにより、高域を20KHzあたりまで延ばして、2Wayで全帯域をカバーしている。
フェイズプラグの狭いスリットの効果により、高域の再生帯域が延びる。
それでも不満があるのか、オーディオ仲間はツイーターを付けろ、と勧めてくれるが、私には何も付けない方が「しっくり」する。
「かえるの息子」(かえるの子はかえる、の意味)は自分のALTEC MODEL 19にfostexのスーパーツイーターを付けた(詳しくは当ブログ内の「口伝(1)オーディオ事始」の写真7参照)。
そのツイーターを当オーディオ部屋で試してみたが「利」と「害」がある。
私はその「利」より、せっかく一箇所(いわゆる「口」が小さい)にまとまっている音源が(後述)、少し散漫になるように聞こえる「害」を嫌った。

MODEL 19は、高域まで延びた802-8Gドライバーとの2Wayを構成するために、クロスオーバーは高めの1,200Hzに設定されている。
つまりこのスピーカーシステムの再生音の音色の「責任」は、大部分を416-8Bウーハーが受け持つことになる。
はいはい、どうぞどうぞ、Welcomeである。
416-8Bウーハーが軽量コーンの傑作であり、その軽さのおかげで2000Hz以上まで十分に対応できるはずである。
事実その結果は申し分なく、ローからハイまでシームレスに境目のない最上級の音が響き渡る。



*ドライバカバーを開くDSCN1477.jpg*タンジェリンFPアップDSCN1474.jpg

<写真3:タンジェリン・フェイズプラグにより高域を20KHzあたりまで延ばした802-8Gのフェイズプラグ部>
**写真左の黒いフレームで囲まれたダイヤフラム・アッセンブリーを取り外すと、オレンジ色のタンジェリン・フェイズプラグが現れる。輪切りにしたオレンジに似ているため「マンダリン・フェーズプラグ」と呼ばれることもあったらしい**


マンダリンオレンジ/タンジェリンオレンジ
「タンジェリン・フェイズプラグ」という名称の由来を、私は正確には知らない。
しかし柑橘系フルーツのマンダリン・オレンジとタンジェリン・オレンジを比べた場合、それらの熟した果実の色が橙色を中心に、マンダリンが黄色に寄り、タンジェリンが赤に寄っていることから、現物の色がマンダリンよりはタンジェリンに近いじゃないか、との命名かもしれない。
あるいはまたこんなことか。
ALTECには往年の傑作、同軸2Wayの604シリーズがあり、そのツイーターのドライバーにはタンジェンシャル・フェーズプラグが使われていた。
そのタンジェンシャルの「タンジェ」と、マンダリンの「リン」とを合わせて「タンジェリン」としたのかもしれない。
音響には関係なく、どうでもいいことではあるが、誰かが、何かを思って名付けたに違いない。


JBL・WE・ALTECフェーズプラグ訴訟合戦
余談であるが、JBLの古い時代のシャーラーホーン用コンプレッションドライバーには、ALTECのタンジェリン・フェイズプラグと同様に、高域を延ばす効果のある、同心円状スリットのフェーズプラグが使われていた。
その「同心円スリット」の特許をめぐって、WE(Western Electric)グループと係争になり、さらにはALTECグループの企業買収などとも絡んで、複雑な争いが繰り広げられた。
フェーズプラグにおけるJBLの同心円状スリット、ALTECの放射状スリットには、多くの興味深いドラマがあった。
WE・JBL・ALTECのオールドファンにはよく知られた話ではあるが、若い方で興味があれば、それらの歴史を紐解いてみることをお薦めしたい。


入手したMODEL 19が鳴らない
さて、話を私のALTEC MODEL 19に戻そう。
MODEL 19の選択は、音の現場でクラシック系の音楽番組などを多く手掛けてきた同僚の薦めがあって即断した。
うまい具合に程度のいい出物があり、即刻getすることができたが、これがなかなか鳴ってくれない。
もちろん音はちゃんと出る。
床を這い、棚のガラスをビビらせる重低音も出るし、妙なる高音も聞こえる。
しかしその音に「音楽を聴く喜び」がない。

長期間、冬眠状態にあったことも考えられるため、私が部屋にいない時には、スピーカー・エージング用の音源を大音量で鳴らすなど、しばらく時間をかけてみた。
新品なら、物によっては1年以上も本来の音が出ない場合もあるかもしれないが、中古品なので、1・2週間我慢すれば、少しは変化があるだろう。
と思っていたが、残念ながら全然変わらない。
MODEL 19に使われている各ユニットは、すでに十分過ぎる定評があり、こんな音ではないはずである。


怪しいのは2Wayネットワーク
この「味のない音」の原因で、もっとも怪しいのは、ウーハーとホーンとを分けるネットワークであろうことは誰もが想像する。
MODEL 19に使われているネットワーク・ユニットは「N1201-8A」である。
これは2Wayスピーカーシステムを、2つのアッテネーターを使って、あたかも3Wayであるかのごとく低・中・高の3つの周波数帯域を調整できるように設計されている。
ここではその話しに詳しく踏み込まないが、アッテネーターのガリもあったことから、すべてのコンデンサーとアッテネーターを交換することにした。

抵抗は交換しない。
写真のようにセメント型であり、おそらく劣化はなく、音質的にも特段の不都合はないと判断した。
アッテネーターは、中域用(下のツマミ)32オームと、高域用(上のツマミ)8オームが使われているが、8オームにはfostexのR80B(8オーム) 、32オームには同R82B(16オーム)を使った。
中域用の32オームに対して16オームを使ったが、このアッテネーターを「12時」以上に回すことは、音のバランス的にあり得ないので16オームでOKとした。
ということなので、写真2(ツマミの位置は普段使用しているポイント)の下側のアッテネーターの回転位置は、オリジナル(32オーム)のアッテネーターの2倍の角度に回されていることになる。
(写真4の近接写真の回転位置は普段のセット位置ではない)。



*19アッテネータDSCN1507.jpg*SPネットワーク.jpg

               <写真4:N1201-8Aスピーカー・ネットワークとその回路図>
**パネルには「STUDIO MONITOR SYSTEM」と書かれているように、海外ではプロの現場でも使われたようである。回路図は抵抗のギザギザや、コイルのクルクルがうまく描けないので、適当なシンボルで描いた。悪しからず、です**



*NWオリジナルDSCN1236.jpg*NW交換済DSCN1510.jpg

            <写真5:ネットワークのすべてのコンデンサーとアッテネーターを交換>
**左側が交換前のオリジナル。右側が交換後。新アッテネーターの軸が長すぎるため、前面パネルと基板との距離を金具で延長した**


コンデンサーとアッテネーターを交換した結果
これらを交換して音を出した瞬間に、今までとは「別世界」が眼前に広がった。
身動きもできず、しばし聞き惚れる。
音に「クセ」が少なく、しなやかで、それでいて弾みがあり違和感がない。
低音は、その最低音まで何の苦もなく軽々と出る。
床が振動する重低音も、感覚としては軽々とフワッと出る。
低音の音色もきちんと表現する。
そして何よりいいな、と思うのは「箱の音」が気にならない。
もう一つ、このスピーカーの大変いい点であるが、ウーハーとホーンとの音のつながりが見事に一致している。
低音から高音までシームレスに1点から聞こえる。
まるで1つの点音源から出ているようであり、ウーハーとホーンの分離を確認しようと意識して聞いても、分けることがむつかしい。
双方のスピーカーユニットの相性の良さもあると思うが、ネットワークの設計がよく練られているのだろう。


ネットワークは鉄心入りのコイルですが何か?
スピーカーのネットワークに興味を持っている方であれば、写真5のネットワークユニットN1201-8Aのオリジナルを見て、「こんな安っぽい「C」と「L」を使っているのか」と驚かれたのではないかと思う。
昨今の、「スピーカー・ネットワーク用」との触れ込みの「高音質コンデンサー」、「高音質コイル」を見慣れた目には、ひどくプアに見えるかもしれない。
いまどきの「常識」は、高音質ネットワークの「C」にはフィルム系、「L」には「空芯コイル」や「箔巻きコイル」が当たり前なのであろう。

おまけに、このネットワークの回路を眺めれば、「このようにゴタゴタした回路を挿入するなど、いいことはないに決まっている」と誰もが思う。
私も強くそう思う。
ところが、この「音質劣化器」のようなN1201-8Aネットワークを装着した MODEL 19から、実にバランスのいい音響が、きれいな泉のように迸り(ほとばしり)、滔々と(とうとうと)流れる大河のように圧倒的な音圧で迫ってくる。
先ほどの「1点から出るような」小さい「口」も素晴らしい。


ネットワークの改造で音質は向上するか?
現状のMODEL 19の音は素晴らしいが、N1201-8Aネットワークの作りが「いかにも古い」ため、「このネットワークを改良すれば、1段も2段も上の音が、簡単に得られるのでは」という錯覚的誘惑に駆られる。
私も机上で、ああしてこうしてと、ネットワーク改造案を練ったことがある。
しかし、コンデンサーとアッテネーターを交換したMODEL 19の音を聴き込むにしたがい、ネットワーク改造の意欲が、どんどん減退していった。
つまり、改造する必要性を感じないほど「すっかり出来上がっている音」のように思えてくる。

現状のMODEL 19の音は、「ゴタゴタ回路の」N1201-8Aだけでなく、ネットワークそのものの存在を、まったく感じさせないほど素直で自然である。
N1201-8Aの大改造、あるいは新規設計製作に関しては、大変興味はあるものの、現状を超えるための難易度は相当高いのではないかと推察する。
改造を試みても、私の技量では泥沼にはまり込み、もがいただけで終わるか、それとも本当は改悪になっているのに、良くなったと自己満足して終わるか、どちらかだろうと、後ろ向きになってしまった。
「鉄心入りのLは音が悪い」などと、一概には言えないのではないだろうか。
この、一見「音質劣化器」のように見えるN1201-8Aネットワークを付けたMODEL 19を聴くと、「鉄心入りのL」が必ずしも悪くはないことを確信させられる。

MODEL 19のオーナーの中には、このネットワーク大改造を試みた方もおられるのではないかと思う。
真の意味で成功された方もいるに違いない。
それはきっと「目が覚めるような音」になるだろう、との確信めいたものがある。




次回の日記は「平面型スピーカー」編と、複数SP×複数アンプ 組み合わせの原始的仕掛け、の予定です



*17真横DSC_9671.jpg




*平横3台DSC_9659.jpg

                  <写真6:平面型スピーカーたちの横顔>



1987年、昭和62年は、国鉄が民営のJRとなり、また電電公社も民営のNTTとなった年。
私はその年、これを越えるものには生涯出会わないであろうスピーカーを手に入れた。
STAX ELS-8X、大型コンデンサースピーカーである。
ELS-8X入手のエピソードは本当に不思議であり、なにか天の力が働いたのではないかとさえ思える。
そしてこの貴重なスピーカーであるELS-8Xを、不用意な環境と使い方で劣化させてしまった。
非情にも、STAXのコンデンサースピーカーの発音ユニットの修復は不可能であり、10年近くの間、狭い納戸に捨て置かれていた。
それを「何としても甦らそう」と、修復への挑戦の意欲を掻き立てたのが、マグネプレーナー型のMAGNEPAN MG1.7の音であった。
平面型スピーカーの音、それは極めて軽量のフィルム・ダイアフラムから出る音である。
それらの音には何か共通した、他の方式では得られない、出すことができない魅力がある。

そういった気持ちを呼び起こしてくれた「大恩人」がMAGNEPAN MG1.7であった。
MG1.7の音による覚醒。
それは昨年の今頃のことである・・・。



*2台バナナDSC_9678.jpg*4分配斜DSC_9753.jpg

          <写真7:複数スピーカーと複数メインアンプとの任意組み合わせの「種」>
**ALTEC MODEL 19にも写真2のように、2ピン・バナナプラグ端子を、本体の右脇底部に設けた。本来の端子は、本体の底についており、横倒しにしなければスピーカーケーブルの脱着はできない**



冒頭部の話の種を明かせば
プリアンプからの1本のバランンス出力を、4組のメインアンプに同時に分配するタムラ製作所製の「音声信号4分配器」(プロ用)と、それぞれのメインアンプに接続されているスピーカー・ケーブルの先端の「2ピン・バナナプラグ」。
そしてすべてのスピーカーに用意された「2ピン・バナナプラグ」端子。

私は、バネを利用した端子を信頼しており、好んで使っています。
JBLにもALTECにも、バネ入りの一見チャチな端子が使われていますね。
ところがどっこい、この端子の信頼性が非常に高い。
そういった話もしたいと思っています。


( 「コンポ(3の1)ALTEC MODEL-19編/愛用スピーカーたちの横顔」 おわり )

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