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いとし子(10)UX-201A二段増幅とマグネチック型ホーンスピーカー~古典ラジオのオーディオ [オーディオのいとし子たち]



「オーディオ」はどこから来たのか
遠い昔へ、時を90年ほど遡ってみよう。
所は米国ニューヨーク。
時代は、ラジオ放送ビジネスがようやく軌道に乗り始め、真空管式のラジオ受信機の普及が本格的に始まろうとする1925年頃である。 
(米国の商業用ラジオ放送の開始は1920年。日本のラジオ本放送開始は1925年)

「オーディオ」はどこから来たのか。
そして今、「オーディオ」はどこへ行くのか。

どこから来たのか、その出発点は1925年頃の「ここらあたり」だろうと思う。
その「ここらあたり」の真空管の増幅回路の形を見ると、まるで私の「最終アンプ」そのものである。
昨今の、電気・電子、それらに立脚した通信などの技術の進化は、世界が一変するほどの変わりようである。
しかしその現代においてもなお、巨岩のごとく変わらない真空管増幅器の「偉大さ」に、改めて敬意を表したい。

一般ユーザー向けの実用的な真空管が使われ始めた1925年頃のラジオ受信機。
その音声増幅部とほぼ同一の回路を採用した私の「最終アンプ」が、最新の半導体デバイスを使い、先進の回路技術を駆使した現代の最上級メインアンプと、音のクオリティーで伍するとは、何か深い意味があるのではないかと思う。


「このあたりから来た」という物証「Freshman Masterpiece」
トランス結合UX-201AドライブUX-201Aシングル増幅器+ホーンスピーカー
「ここら」とは、米国における1925年頃のラジオ受信機の中の、スピーカーを鳴らすための音声増幅部(ラジオ用語では「低周波増幅部」)と、それに接続されたスピーカーあたりではないかと思う。
具体的には「トランス結合2段増幅、UX-201AドライブUX-201Aシングル増幅器」と、「マグネチック型ホーンスピーカー」である。
この付近が、一般市民にとっての「オーディオ」の原点であり、アンプとスピーカーの源流の最深部だろう。
もちろんそれ以前にも、真空管増幅器やスピーカーは存在する。
しかし一般市民のレベルで「オーディオ」を考える場合、やはりこの時代、1925年頃が事の始まりだと思う。

さて、その原初の真空管増幅器は、写真1・2にあるような1925年頃に作られたいくつかの米国製ラジオ受信機の内部に、共通した形で組み込まれている。
その分かり易い例として、ニューヨークを本拠地としたFreshman社のModel「Freshman Masterpiece」ラジオ受信機を紹介したい。


Freshman社Model「Freshman Masterpiece」ラジオ受信機
このラジオ受信機は、当時としてはめずらしく、スピーカー(マグネチック型ホーンスピーカー)を内蔵している。
また、ネーミングが秀逸である。
この会社の基本路線が「かっこいいものを安く」であったらしく、創業者のCharles Freshmanの名を冠して、それに「Masterpiece」の称号を付けたのは、なかなかの商才だと思う。
ただし残念ながら、その後のFreshman社は「安く」のツケがまわってきたのか、販売したラジオにトラブルが続発し、ついに廃業に追い込まれたという。


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                  <写真1-1:1925年頃の「廉価版」ラジオ受信機>
**写真の左側のラジオは米国Equitable Radio社のModel「Claratone」。右側がFreshman社のModel「Freshman Masterpiece」。この2つはいずれも安価な普及品であり、特に「Claratone」は外側内側ともチープ感が漂う。しかし音が良く、フィラメントの電圧計が付いているので、私はこれが一番のお気に入り**



*1-2DSC_0044.jpg*1-2DSC_0054.jpg
    <写真1-2:左、「Claratone」のフィラメント電圧計。右、これら2つのラジオ受信機の電源Box>
**「Claratone」のフィラメント電圧は、メーターの下の左右のツマミ(レオスタット)で調整する。現在4.2Vを示している。このラジオの場合、この付近の電圧が最も聴きやすい音質になる。
手提げのキャッシュボックスは、この2つのラジオ受信機用の自作直流電源(当日記の最後部に内部の写真あり)。鍵が電源スイッチになっている。写真2の左側写真に写っているブリキ広告板の絵にあるような「金属箱ラジオ」に似せたつもり。当時、絵のような「金属箱ラジオ」も流行した**



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                <写真2:同じく1925年頃の「高級」ラジオ受信機>
**写真の上のラジオは米国Atwater Kent社のModel 20。下は同社のModel 33。Atwater Kent社は高級ラジオのメーカー。使われている各種部品も良質であり出来もよい。この2つも、すべてバラしてレストアした**



アンティークラジオで関東のラジオ局全局が受信可能
私は古い時代のラジオ受信機が好きであるが、特に初期の真空管式ラジオに惹かれる。
写真1、2は、何年か前にせっせとレストアに励んで完動させた「いとし子」である。
東京の西の郊外の自宅において、関東のラジオ局であれば室内のビニール線アンテナでよく聞こえる。
いずれのラジオも、現代のラジオのスーパーヘテロダイン方式が発明されるずっと以前の、「TRF Radio」と呼ばれる初期の回路形式の受信機である。
TRF(Tuned Radio Frequency)方式は、ラジオ周波数の高周波を、そのままコイルで同調させて増幅する形式であり、回路が簡単である反面、高周波を扱うため、発振等により動作が不安定になる問題点がある。
TRFラジオは、普通、写真のように3つのチューニングダイヤルを回して、目的のラジオ局に「ダイヤルを合わす」(チューニングする)必要がある。
写真2の下側のラジオもTRFであるが、これは少々知恵を絞って、3つのダイアルの回転をチェーンで結び、ダイヤル1つで3つのダイヤルを回してチューニングができるように工夫されている。
ただし独立した3つのダイヤルで行うようには、完全なトラッキングがとれないため、左端の小さなツマミでチューニングの微調整ができるようになっている。


オーディオの「出発点」を「Freshman Masterpiece」に見る
写真3は、「Freshman Masterpiece」をレストアしたときのものである。
後々のメンテナンスを考慮して、このような構造にしたのかどうかは不明であるが、大々的なメンテナンスも、このように各部を容易にバラすことができる。
写真1・2の他のラジオ受信機も、ほぼ同じような具合に分解することができる。


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            <写真3:「Freshman Masterpiece」の全体を各部に分解する>
**キャビネットの左側にはスピーカーのホーンが組み込まれている。奥の黒い筒の先の円筒形がマグネチック型のドライバーユニット。ラジオの回路は1枚の厚手のベークライト板に、すべての部品が取り付けられている。左手の白い箱の中は、取り外した5本の真空管(すべてUX-201A)。真空管試験器でチェックした結果、すべて使用可能であった**



General Purpose(汎用管)UX-201Aが何でもこなす
真空管の黎明期、1920年前後の「真空管発達史」を紐解くのは容易ではない。
先進各国、いくつものメーカーが入り乱れての開発競争・特許合戦を繰り広げ、大変複雑な状況であった。
そのためここでは、真空管の夜明けの時代、1920年に開始された米国における商業用ラジオ放送を見込んで市場に投入されたRCAの一般市販の真空管に限定して話を進めたい。

RCA(Radio Corporation of America)の一般市販の真空管の第1号は、1920年に登場したUV-200(希ガス入り検波用)とUV-201(増幅・発振などの汎用)であった。
いずれも純タングステン・フィラメント(5V 1A)であり、その大きな消費電力のため、フィラメント点火用のバッテリーの消耗が激しく、まだまだ実用的な真空管とは言えなかった。
当時は整流管もなく、ダイオードのような整流素子もない時代であり、一般的には「真空管はバッテリーで駆動するもの」であった(プロフェッショナル用は話が別)。


トリエーテッド・タングステン・フィラメントの開発
しかしその後、GEのフィラメント製造工場において「作業ミスによる偶然の幸運」から、エミッションが格段に優れたフィラメントが発見され、その現象を研究した結果、トリエーテッド・タングステン・フィラメントが開発された。
同時に高真空技術も確立され、さらにガスを吸着して真空度を保つゲッターも開発された。
そしてフィラメントの消費電力が1/4に減少し、エミッションが大幅に増加したトリエーテッド・タングステン・フィラメント採用の最初の真空管、UV-201(5V 0.25A)が登場した。
1922末~1923年のことであり、実用的な真空管の世界デビューである。


実用真空管の勢揃い
その後の1925年、RCAはいくつかの真空管を市場に投入し、それらは世界的な大ヒットになった。
足のピンをUV型(短い)からUX型(長い)に変更したUX-201A、その201Aのオーディオ出力をパワーアップしたUX-112(出力0.2W)、さらに強力なUX-171(0.79W)など、ラジオの時代の幕開けを宣言するとともに、世界的に広く普及することになる一連のシリーズ球であった。
これらの真空管は日本でも多くの真空管メーカーが製造し、戦前から戦後にかけての国産ラジオにも広く使われた。


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      <写真4:1925年に登場したRCA UX-201A 汎用(いろいろな用途に使える)真空管>
**写真1、2のどのラジオ受信機も、このUX-201Aのみで動作する。高周波増幅も、検波も、音声増幅も、すべてこの球で用が足りる。スピーカーの音量が不足する場合は、最終段の音声増幅出力管をUX-112に挿し替えればよい。球の下部のゲッターが白っぽいのは「エミ減」(エミッション低下)ではなく、ゲッターの付着が薄い部分。トップビューの球には、カメラマンの私を含め、オーディオ部屋の「全天」が写り込んでいて面白い**



「Freshman Masterpiece」に見るオーディオの始まり
さて1925年、米国のラジオ放送が始まって5年が経ち、実用的な真空管も登場してラジオ受信機は急速に普及し始めた。
居ながらにして音楽が聴ける。
イヤフォンを必要とせず、大きな音がスピーカーから出る。
家族一緒に聴いて楽しめる。
これぞ当時の人が渇望していた文明の利器である。
ラジオは、オーディオ的には「音楽が聴ける箱」であるが、社会的な意義としては、情報のmass communicationであり、それまでに類のなかった「放送」という一斉同報メディアの出現であった。


やはりオーディオの原点はここだろう。


当ブログのカテゴリー『原器を目指した「最終アンプ」(第1話)』の冒頭部で、私は真空管アンプの「原点」について、つぎのように綴った。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
自問自答
君は原器の音を聞いたことがあるか。
先達が真空管アンプの「原初」「原点」と唱えるWE-25B。
3極管WE-205Dによるシングル単段のパワーアンプ。
生産されたのは1925年ごろ。
大正14年、日本のラジオ放送(JOAK)が開始された年である。
当時は実用的な整流管がまだ開発されていなかったため、整流は同じWE-205Dのプレートとグリッドを結んで2極管とし、それを整流管として使っている。
出力は1W以下。
余計なものは一切なし。
これぞ真空管増幅器の「原点」といえるだろう。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

確かに真空管アンプの原点を訪ねると、この「WE-205Dによるシングル単段パワーアンプ」に行き着くだろう。
そしてこのWEのプロフェッショナルの世界における流れは、蓄音機のレコードの「電気吹き込み」マシンに発展し、現代まで続く「音楽音源」の基盤を整備して、確固たるレコードと、レコード・ビジネスの世界を築くことになる。

今日の日記の主題からは少し外れるが、「オーディオ」を語る上で、蓄音機から電蓄、そしてステレオ装置、という進化の流れも重要である。
これに関しては、もう少し話を続けたい(当日記の最後部につづく)。


さて、プロフェッショナル側の話は置くとして、ここでは「一般市民のオーディオ」という面から、その源流を訪ねてみたい。
「オーディオ」と呼べるものの要素は、「音楽、音源、再生装置」ではないかと思う。
そう考えた場合、オーディオの原点として行き着く先は、やはり「ラジオ受信機」だろう。


「Freshman Masterpiece」の中身
本日の日記は、ラジオ受信機の解説が目的ではなく、その中に組み込まれている「オーディオ」の原点を見ることにある。
そういった観点から、分解した中身をざっと観察してみよう。


*5DSC_5371.jpg*5DSC_5365.jpg
         <写真5:「Freshman Masterpiece」のベークライト基板上部の部品配置>
**3組の同調コイルとバリコン、5つの真空管ソケット。基板の後ろ縁にはアンテナとアースの端子、それに3種類のバッテリー電源の端子がある。後側に3つ、前側に2つの真空管ソケットは、前2つの右側(V4)がドライバー管、左側(V5)が出力管用である**



*6DSC_5373(ト).jpg*6DSC_5377.jpg

               <写真6:ラジオの検波部の重要部品「グリッドリーク」>
**左写真の右端オレンジ色の棒状のものは、真空管V3の検波回路の重要部品「グリッドリーク(高抵抗)」であり、「VARIABLE GRID LEAK」と記してある。上に突き出ている棒を出し入れすることにより、数100Kオーム~10Mオームほど抵抗値を可変することができる。到来電波の強さや受信機の状況などに合わせて最良点に調整しておく。その下にグリッドリークとパラレル接続の0.00025μF(250pF)のコンデンサーが見える。
同調コイルの構造がよく見えるが、この形式のコイルを自作することはかなり難しそう(たいていの形式のコイルは自作可能であるが)。右写真は銘板のアップ**



「Freshman Masterpiece」の内部配線と回路
写真7と図1は「Freshman Masterpiece」実機の基板裏の配線と回路図である。
この実機の結線に合わせて、元の回路図の一部を修正してある。
アンティーク・ラジオに興味がある方は、基板の表・裏の状態と回路図とを対比してご覧になると何かの参考になるかもしれない。

このラジオ受信機は、「C電源」と呼ばれるグリッドバイアス用の電源を省略した回路を採用している。
写真1-1に「廉価版ラジオ受信機」として紹介したが、その「廉価」ゆえの省略だろう。
ただし現実的には、この当時のラジオ受信機に、グリッドバイアスを正しくかけても、音質はたいして変わらない。
レオスタット(フィラメント電圧調整ボリューム)を調整することにより、音質が大きく変わるため、グリッドバイアスによる影響はさほど関与しない、とも言える。
本機の回路では、レオスタットを絞ると、絞った分の電圧がグリッドバイアスに転化されるが、その効果は分からない。


*7DSC_5418正.jpg

<写真7:「Freshman Masterpiece」の基板裏の配線>
**このように太い針金(銅線)で結線する方法が、この時代のラジオ受信機の代表的な配線のやり方である。**







*F.M.回路図(BMP正立ト)07.jpg


<図1:「Freshman Masterpiece」の全回路図>




**電源スイッチは、フィラメント用のON/OFFスイッチがあるだけ。B電源のスイッチはなく、常時通電状態にある(フィラメントがOFFの時、B電源は流れないので電池は消耗しない)。高周波増幅・同調部と、検波・音声増幅部とに分離されたレオスタット(フィラメント電圧調整用ボリューム)を、それぞれ適当に回して、受信感度や音質、音量などを調整する。つまり、フィラメントの電圧を調整してフィラメントのエミッションを大幅に変化させ、それによる真空管の諸特性の変化を利用する、という「おおらかで大胆」な調整法である**



1925年のラジオ受信機の「オーディオ部分」を見る
では「Freshman Masterpiece」の全回路図から、「オーディオ」の部分を抜き出してみよう。
つまり、ラジオ受信機で言うところの「低周波増幅部」、つまり音声信号(オーディオ信号)増幅部である。
その抜き出した「オーディオ」部分が図2である。


F.M.音声増幅部回路図(BMP)04.jpg
<図2:「Freshman Masterpiece」の全回路図から、スピーカーを鳴らすための音声増幅部のみを抜き出した>
**「Freshman Masterpiece」の場合、この回路の出力にはマグネチック型ホーンスピーカーが接続されている(マグネチック型スピーカーのインピーダンスは10Kオーム程度だろう)。この回路で現代の8オームのダイナミック型スピーカーを鳴らすには、この図のように「10KΩ:8Ω」などの出力トランスを挿入すればよい**





1925年のラジオ受信機の音声増幅回路が私の「最終アンプ」と同一!
当ブログのカテゴリー『原器を目指した「最終アンプ」』において、タイトルどおりの性能を狙って「背水の陣」的な思いで製作した真空管アンプの増幅部と、図2は同じではないか。
「最終アンプ」のカソードバイアス用の抵抗とコンデンサーを取り除けば同一である。
常識的には、現代の回路技術を駆使すれば、格段に優れた増幅器が作れるのではないか、と考えるのが普通だろう。
ところが、それとはまったく逆の考え方をした「最終アンプ」が、極めて良好な音を出す。
これにはきっと、深い深い理屈があるのだろう。
その「最終アンプ」の信号増幅部(電源回路を除いた部分)が図3である。
図2と比較すれば同一であることがよく分かる。
もっとも、このような回路が「同一」であるかないかなど、あまり意味はない。
元々が、これ以上に簡素な真空管増幅器はあり得ないので、時代に関係なく、この形にならざるを得ない。


*211アンプ増幅部回路図(ト字).jpg
<図3:「最終アンプ」の信号増幅部の回路>
**実機では、この信号増幅部への電力供給を、有り余る容量の電源部が支えている(電源部は磐石でなければならない、という信念のもと)**




スピーカーの始まり マグネチック型スピーカー
真空管増幅器が実用になり、ラジオ受信機にも大きな音が出るスピーカーが使われるようになった。
イヤフォンを耳に当てなくても聴くことができる。
大勢の人が一度に聴くこともできる。
ラジオ受信機にとっては大進歩であった。
「真空管アンプ+スピーカー」、つまりこれが一般市民の「オーディオ」の始まりであったと考えられる。

この当時のスピーカーは、ほとんどが「マグネチック型」と呼ばれる形式のものである。
「Freshman Masterpiece」にはマグネチック型ホーンスピーカーが内臓されているが、私のセットは幸運にもスピーカーは健全であり、問題がなかった。
そのため分解することなく、残念ながら詳しい写真がない。
そこで写真1の、丸型電圧計が付いたラジオ受信機の上に乗せてあるスピーカーを代役として、写真のモデルに起用した。
「Sonora」というモデル名のラジオ用スピーカーである。
「Freshman Masterpiece」に内臓のスピーカーと同じタイプのマグネチック型ホーンスピーカーである(マグネットやヨーク等の形状は異なるかもしれない)。


*8DSC_0045.jpg*8DSC_0167.jpg
               <写真8:「Sonora」のマグネチック型ホーンスピーカー>
**当時のラジオ受信機は、ほとんどがスピーカーを内臓していなかったので、このような「ラジオ用スピーカー」が単体として売られていたのだろう**


このスピーカーは、外箱とホーン本体とが簡単に分離できた。
ホーン本体はドライバーと、「喉」の筒は金属であるが、それから先は木工であり、かなり粗っぽい作りである。これが「要所だけはきちんと押さえる」米国流であろう。


*9DSC_0118.jpg*9DSC_0107.jpg
                     <写真9:「Sonora」のホーン本体>



ドライバーのカバーを外して、マグネチック型の構造を見る。
日本の戦前・戦中のラジオに一般的に使われていた、U字形磁石のマグネチック型コーンスピーカーと基本的に同じ仕組み(バランスド・アーマチュア型)である。
大きな紙のコーンの代わりにホーンドライバーのダイヤフラム、薄くて小さい金属円盤を振動させる「バランスド・アーマチュア型」のマグネチック・スピーカーである。


*10DSC_0123.jpg*10DSC_0136.jpg*10DSC_0140.jpg
           <写真10:マグネチック型ホーンスピーカーのドライバーの仕組み>
**マグネットはU字ではなく、両先端部の幅を互いに1/3ほどに削り、それをリング状にして2cmほど重ね合わせている。真横からの写真では双方のその部分がビスどめされている。真上からの写真には、可動鉄片に半田づけされた、振動を振動板に伝える細い棒の先端が見える**



マグネチック型スピーカーの音はお世辞にもいいとは言えない
「Freshman Masterpiece」に内臓のマグネチック型ホーンスピーカーも、それと同じ形式のこの「Sonora」も、音は狭帯域で硬めであり、もう少しなんとかならないか、と思う。
当ブログ『「いとし子」(6)「爺様の古ラジオ」』と組み合わされていた、国産のマグネチック型コーンスピーカーの音も似たり寄ったり、であった。
当時の人も、めずらしかったラジオに慣れてくるにしたがい、「もっといい音」への要望が高まっていったに違いない。



アンティーク・スピーカーの箱の中身は「ダイドーボイス」
実はこの「Sonora」(写真8。丸型電圧計が付いたラジオ受信機の上に乗せてあるスピーカー)の中身は、オリジナルのマグネチック型ホーンスピーカー(写真9)ではなく、16cmのダイナミック型スピーカー、ダイドーボイスのDS-16Fに「すり替え」てある。
もちろん、10KΩ:8Ωの小型の出力トランスを内臓した(図2参照)。
このようにしてダイナミック型スピーカーで聴くと、「まあこんなところだろう」程度ではあるが、長時間聴いても疲れることはない。



現代に続くダイナミック型スピーカーの発明
現代のスピーカーの仕組みと同じダイナミック型コーンスピーカーは、1924年に発明されている。
当時の人たちの「もっといい音」への切望は、ほどなく実現することになるが、普及はなかなか進まなかった。
スピーカー本体の製作コストがアップするだけでなく、音声増幅部の真空管の出力のインピーダンスを変換するための出力トランスが必要となり(図2参照)、ダイナミック型コーンスピーカーへの置換は、コストの面からそう簡単ではなかった。
高級ラジオや高級電蓄には早くから使われたと思われるが、一般のラジオなどに広く使われるには、社会全体がさらに豊かになる時代を待つことになる。

私がAtwater Kentのラジオ受信機と同時期に入手した、初期の時代の(たぶん1930年前後の)ダイナミック型コーンスピーカーを、参考までにお見せしたい。
まだ、このスピーカーユニットを取り外して調べたことはないので、折を見て分解してみたいと思っている。
なお、このOPERADIO社製のスピーカーは非常に重い。


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               <写真11:初期のダイナミック型コーンスピーカー>
**コーンの駆動部は、一般のスピーカーとは反対側の前面に取り付けられている。このスピーカーは、永久磁石を利用していない。また、フィールドコイル型ではあるが、ラジオの出力管のプレート電流をフィールドコイル(field excitation coil)の励磁に利用するタイプではない。その励磁電流を作るために、整流管を使った「FIELD SUPPLY PAC」が内臓されている。箱の底板に取り付けられた、トランスと整流管が付いている黒いユニットがそれである。音はマグネチック型にくらべてはるかに柔らかく、低音も出て、ずいぶんよくなった。これで音楽を聴いた当時の人は感激したことと思う。このスピーカーのインピーダンスの記載はないが、当時のラジオのスピーカー出力をつなぐことを前提としているので、10Kオーム程度だろう。その整合トランスを、スピーカーユニットのフレームに背負っている。挿してある整流管は当時のものではない**




(冒頭部からのつづき)
オーディオのもう一つの流れ~蓄音機から電蓄へ
蓄音機から電蓄、そしてステレオ装置、という進化の道もある。
円盤型レコードが登場したのは1902年であり、当時のカッティング(録音)はエレキを使わない「機械式吹き込み」であった。
そういった時代を経て、マイクロフォン、真空管増幅器、カッターヘッドなどによる、いわゆる「電気吹き込み」レコードが登場するのが1925年である。
そしてユーザー側の再生装置には、その後、電気式のピックアップ、真空管増幅器、スピーカーを使った「電気蓄音機」(電蓄)が登場した。
この「電蓄」は、従来からの機械式「蓄音機」とともに長い期間、SPレコードからLPレコードに世代交代するまで共存した*。
ここではこれ以上踏み込まないが、「オーディオ」の歴史を見るには、この蓄音機の流れもきちんと押さえておかなければならないだろう。

*エレキを使った「電蓄」が、従来の「蓄音機」を最後まで駆逐できなかったことは、「オーディオ」を考える上から、たいへん興味深い。
私の推論は、SPレコードの再生において、エレキを使った「電蓄」の音が、純機械式の「蓄音機」の音よりも「驚くほど勝っているとは評価されなかった」ことが要因の一つではないかと思う。




ご参考

アンティーク・ラジオ用の自作直流電源
写真1に写っている水色の小さな手提げのキャッシュボックスには、当時のラジオ受信機用の直流電源が仕込んである。
写真2の壁に掛けたブリキ広告板の金属箱ラジオに似せてみた。
写真12はその内部の様子。
この手のアンティーク・ラジオ用には、定番の「ARBE-Ⅲ」という専用電源が市販されており、私もAtwater Kentに使用している。
が、それはデザイン的に面白みがないので、キャッシュボックスを利用して作ってみた。
難点は、コストが定番既製品を上回ってしまったことである。


*12DSC_0059.jpg

<写真12:1925年当時のアンティークラジオ用の直流電源を組み込んだキャッシュボックス>
**5Vのスイッチング・レギュレーター1個、48Vを2個、それにノイズフィルターを組み合わせて「+5V、+45V、+90V」の直流を作っている。スイッチング・レギュレーターの高周波ノイズの影響はない**





「RCA UX-201A」の元箱に入っていた使用説明書
本日の日記のもう一人の主役は「RCA UX-201A」である。
その写真4の元箱に、90年を経て茶色に変色し、少し曲げればパリッと割れそうに乾燥しきった、この球の使用説明書が入っていた。
一般のユーザーにとっては、実用的な最初期の真空管であり、同封されていたその説明書も、丁寧に分かり易く書かれている。
お時間の許す時にでも目を通していただければ、何かの参考になるのでは、と思った次第である。


*13IMG_20140512_0001.jpg*13IMG_20140512_0002.jpg
<写真13:RCA UX-201Aの元箱に同封されていた使用説明書>





そして今、「オーディオ」はどこへ行くのか

CDからハイレゾオーディオ?

イヤフォンからスピーカーへ。
マグネチック型スピーカーからダイナミック型スピーカーへ。
SPレコードからLPレコードへ。
モノラルレコードからステレオレコードへ。
半導体増幅器の登場。
LPレコードからCDへ。
そして音源のダウンロード。

これらの技術の飛躍は、同時に社会にも大きく影響した「イノベーション」といえるだろう。
しかし、この項目の上位4項目(スピーカーからステレオ)までの進化で、もう出尽くした感もある。
もうそろそろ次の「真のイノベーション」が出てきてもいい時期ではないだろうか・・。




*プリンDSC_2118.jpg

『ちょっとちょっとお父さん、イノベーションだか何だか、わけのわからないこと言ってないで、目いっぱい「れおすたっと」を回して暖かくしてもらえるかニャ』


(「いとし子(10回)UX-201A二段増幅とマグネチック型ホーンスピーカー~古典ラジオのオーディオ」 おわり)



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コメント 2

marco

こんばんは

当時の機材の紹介、また当時の回路等についての、貴重なお話を載せていただき、ありがとうございます。

本当にびっくりしました、オペラジオのスピーカーを自分も持っていて、鳴らすこともあったので、、、
こんなもの使っている方は、日本には、、、などと思っていましたが、いらっしゃることを知り、とてもうれしくなりました。

昔のものが好きで、マグネチックスピーカーも現役で、、今もちょうどCD鳴らして、楽しんでいます。

マグネチックタイプも、とても魅力的です!やっぱりダイナミックスピーカーとは違う、何かを持っていると感じています。ただ、ドライバータイプは、英アンプリオンを持っていますが、きつい音が出て、どうしても音楽楽しめませんでした。
でも、コーン紙タイプ、25年ごろの英セレッション、27年頃の仏ラジオラボックスなど、とても楽しめ安定した音です。24年頃の、仏リュミエールはたいへん素敵な音色ですが、少し大きな入力で、コーン紙が共振しやすく、、今いろいろ調整中です。ちょっと、完全は無理かなあ、、とちょっとあきらめ気味ですが、、

たぶん、コーン紙型でWEの陣笠タイプもそうかと思いますが、アメリカ・ヨーロッパのコーン紙タイプは、相当普通に、とても魅力的に音楽楽しめるのでは、と感じています。

最近、当時の形で鳴らして見たいと、バッテリー使用時代の仏のラジオを手に入れてしまいました。出力段は、B404/B406という球で、電源どうしようか?と悩んでいます。
また、相談にのっていただけたら、うれしいです。

つい、オペラジオを見てうれしくなり、勝手に長々と書いてしまい、恐縮です。


by marco (2014-05-21 01:16) 

AudioSpatial

marcoさん、私も驚きました。OPERADIO社のスピーカーをお持ちなんですね。いやいや、こちらこそうれしいです。
この会社の創業は1922年頃とかなり古く、ハイクラスのラジオやスピーカーのメーカーだったようです。私のスピーカーの銘板に住所の記載がありますが、本社をイリノイ州のST.CHARLESへ移したのは1928年なので、その後数年以内の製品ではないかと推測しています。このスピーカーには、ナス型の整流管RCA UX-280が挿してありました。工場出荷時のものかどうか分かりませんが、UX-280は1927年に登場しています。完動球でしたが、80最初期の貴重品ですので、後年のRCA 80に挿し替えてあります(笑)。
マグネチック型スピーカーは、おっしゃるとおり、コーン型の方が聴きやすいと思います。ホーンを大型にしたりなど、いろいろ実験をしてみたいとは思いますが・・。マグネチック型の音は、蓄音機のサウンドボックスの音に通じるものがあるように聴こえます。帯域が狭いなどの話ではなく、音の出方に「直接感」があるように思えます。
欧州の古典ラジオは経験がありませんが、B406・404は4V 0.1Aの、電極が一般の縦ではなく横向きの球でしょうか。ナス管の丈を縮めたような。
電源はブログにも書きましたが、何と言っても「ARBE-Ⅲ」が万能です。古典バッテリーラジオで対応できないものはないと思います。フィラメント用A電源は、約1.25V~6.5V程度まで連続可変ですし、BもCも幅広い電圧が選択できます。何年か前は、国内に良心的価格で輸入販売するショップがありましたが、現在はどうやら自分で輸入するしかなさそうです。
あるいは、ブログのキャッシュボックスに組み込んだ電源のように、スイッチング・レギュレーターを組み合わせてもよいかと思います。フィラメントは、5Vのレギュレーターの可変範囲で4Vになるかどうかですが、確認の必要があります。
こちらこそ、いろいろお教え願えればと思っております。どうもありがとうございました。
by AudioSpatial (2014-05-21 23:09) 

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