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「最終アンプ」(7の1)定電流点火、寿命と音質 [原器を目指した「最終アンプ」]


*ピカアンプ全DSC_9295.jpg*ピカアンプ球DSC_9310(新).jpg
        <写真1:電源ON時の突入電流により不良MT管の下部が1・2秒光る様子>


*300BアンプDSCN0569.jpg*300BアンプupDSCN0555.jpg

上段はラッシュカレントでピカーと光る不良MT管(記事は当ページ)。
下段は私が20年以上前に、交流点火やスイッチング・レギュレーター点火など、散々いじり倒したWE300Bsアンプです(記事は(7の2))。



不良MT管「ピカ球」
交流点火ラッシュカレント(突入電流)の実演


私が名付けた「ピカ球」を挿して電源ON!(上の写真1)。
トランスのヒーター巻線直結の最も過酷なラッシュカレントの直撃を喰らって管内下部が1・2秒明るく光る。
この光る原因と、その不良個所の写真は、この後の写真3。


*ピカアンプ定常DSC_9322.jpg


<写真2: 1・2秒後には光は消え、しばらくして全球のヒーターが灯る>
* *その後は何事もなかったように正常動作し、健全な球との区別はつかない**





不良「ピカ球」の原因や、不良個所の写真等の詳細は、この後の本文をご覧いただきたい。
10数年~20年ほど前に購入した各種のMT管(数10本)の中に、このような球が少なからず混じるようになった。
この球の欧州ブランドのロゴ印の信憑性や、中身との整合性について、私は興味がない。
一流メーカーの正規生産が終了した後に作られた球であろう。



定電流点火と突入電流

交流点火も定電圧点火も、ラッシュカレント(突入電流)の実害なし
逆に定電流点火はフィラメントやヒーターに過酷な負担を強いる


言い得て妙「オームの法則無視しちゃダメ」
「最終アンプ」は、「「3端子レギュレーター」による「直流・定電圧点火」である。
「最終アンプ」に関する私と円通寺坂工房とのやり取りは、今から20年以上も昔の話である。
その当時から、私も円通寺坂の工房も、「交流点火」には音響的にプラスの要素はなく、むしろマイナス要素しかないことを「常識」としていた。
また「定電流点火」などは、その「常識」以前の話しであり、考えられないことであった。

円通寺坂工房での熱すぎるコーヒーの話はバックナンバーにあるが、その茶飲み話に、フィラメント点火法式の話も話題に上らなかったわけではない。
正面から議論する問題ではなかったが、世間話しには出た。
この話にかぎらず、いわゆる「風説」の話になると円通寺坂工房のKさんの口癖は、「オームの法則無視しちゃダメだよ」であった。
これは「言い得て妙」な名言である。
「オームの法則」とは、その法則そのもののことを指すのではなく、エレキ全般の法則・原理・用法のことを象徴した言葉である。


オームの法則無視の典型「定電流点火」の非情
「定電流点火」を是とするなど、これこそ正にオームの法則そのものを無視した典型である。
この問題はズバリ、「オームの法則」そのものが是否の答えになる。
ただし、定電圧点火における電源ON時の突入電流の影響についての指摘は、もっともな話しである。
もっともではあるが、私が使ってきた真空管の20年~30年ほどの実績から、実害はなかった。
ただし、冒頭写真1の「ピカ球」のような、ヒーターに不良個所がある真空管にとっては、電源ON時の突入電流はダメージを与える可能性がある。
ただし、そのような不良球の救済のための「定電流点火」であれば、それは本末転倒である。


電源ON時にヒーター下部がピカーっと光るMT管は不良品
ここ20年ほど前あたりからか、購入したMT管の中に、電源ON時にヒーター下部がピカーっと光るものが混じるようになった。
今現在はどうなのかは知らない。
昔は、そのような球は市場には出なかった。
品質管理の過程でハネたのだろう。
不良品である。
昨今はそのような球も売りさばくようになったのだと思う。
「光る球でも問題ない」と言っている人もいるが、残念ながら問題のある不良品である。
数百回も「ピカー」を繰り返せば、遅かれ早かれヒーター断となる。
手っ取り早く実験するには、その「ピカ球」を、「ピカー」と同じ程度の明るさになるような電圧で点火すれば、数分を待たず、ご臨終となる。
私は以前、それを試してみた。
あっけないくらい、短時間で切れる。
いつまでも点灯を続ける白熱電球を連想してはいけない。
電源ON時のピカーの持続時間を1秒とすると、100回で100秒、つまり1分40秒である。
だから「耐用回数」は数百回程度だろうと思う。

ただしその寿命は、ピカーっと光る時の光り具合、つまり温度に依存する。
金属の蒸発なので、ある温度を境に、急激に短寿命になる可能性がある。
その逆のことも言えるので、暗い光なら、ダメージは少ないかもしれない。


光る原因はむき出しの発熱線
光る原因は、その部分を観察すればすぐに分かる。
「ピカ球」のヒーター線と、足のピンとの接続部分(溶接部分)を、ルーペ等でよく見ると、発熱線が数mmむき出しになっている。
絶縁コーティング部や、カソードスリーブに収まっている部分は熱慣性が大きいが、むき出し部分はそれがなく、電源ONのラッシュカレントで白熱する。
足ピンとの溶接部分は当然むき出しであるが、熱は足ピンに逃げて白熱しない。
私の推論であるが正解だと思う。


*ピカ悪DSC_9190.jpg*ピカ良DSC_9213.jpg

             <写真3:電源ON時にピカーっと光るMT管の原因個所>
**左側が「ピカ球」。発熱線のむき出し部が長い。熱慣性が小さいこの部分が白熱する。右側が正常球。むき出し部が短い。片線はほとんどゼロ。これが生産現場で定められた作業要領だろう。もう片方はむき出し部が少しあるが、この程度なら熱は溶接部に逃げて大丈夫らしい。いずれにしろ作りも雑、品質管理も雑になってきたのだろう。写真の球はいずれも欧州ブランド印のECC82**


不良球の「ピカ球」には定電流の効果あり
光るのは、電源ONのラッシュカレントの、ほんの1・2秒のことなので、安定時の電流値(つまりヒーター電流の規格値付近)で定電流点火すれば、光らないのではないかと思う。
確かに定電流点火は、「ピカ球」の光ることによる消耗に対しては有効だろう。
ただし、不良球に有効でも、正常球にメリットがなければ意味はない。



正常な真空管に対してはメリットなし 逆に過酷な「定電流」
突入電流(ラッシュカレント)は、先の「ピカ球」のように、目立って光ったり、赤熱するような不良球でないかぎり、フィラメントやヒーターには悪影響を与えない。
そのような不良球相手の対策などは本末転倒であり、議論の俎上にはない。
結局、「突入電流」の問題は、定電圧点火であれ交流点火であれ、存在しないことになる。


稼動20年実証済 突入電流の実害なし
定電流点火は電源ON時の突入電流がないのでヒーターが長持ちする、という指摘がある。
これについては、先の「不良ピカ球」の段でお話ししたが、この球のような不良品については効果があると思う。
しかし健全な球については逆である、という指摘をした。
20年以上にわたる「最終アンプ」の稼動実績から、健全なヒーターにおける突入電流の影響について断言しておきたい。
801A10、それに211類のトリエーテッド・タングステン・フィラメント(トリタン)を定電圧点火した場合の話である。
電圧印加時の突入電流(ラッシュカレント)による、フィラメントへの悪影響は、この20年間みられなかった。
悪影響はなかった、と考えられる。

本機「最終アンプ」は、3端子レギュレーターの一般的用法により直流・定電圧点火している。
その回路図が図1、実物写真が写真4である。


*211アンプ電源部回路図.jpg

*211アンプ増幅部回路図.jpg




            <図1:「最終アンプ」のフィラメント点火用電源部の回路図>
       **3端子レギュレーターの一般的な用法であり、特別な点は何もない**



*2113端子レDSC_7060 (2)a.jpg


<写真4:3端子レギュレーター部のクローズアップ>
**左側のLT1084がドライバー管801A(7.5V 1.25A)用、右側のLT8013が出力管211(10V 3.25A)用**





本機はこのような3端子レギュレーターを使用しているため、突入電流など、レギュレーターの電流容量を超える過大電流が流れた場合は、自動的に電流制限を受け、突入電流のピークが、多少は押さえられるのかもしれない。

さて本機の稼動状況であるが、日常の使用回数を、1日2時間、週に3日使うと仮定した場合、1年で156日、つまり156回電源を入れたことになる。
実際は1日に2・3回電源をON/OFFすることがあるので、まあざっくり1年に200回電源を入れたとしよう。
本機で使うお気に入りの211系の愛球は数本あるので、20年間で登板した日数は、おそらくその1本が通算5年以上にはなると思われる。
とすると、5年×200回=1000回になる。
「最終アンプ」稼動の実績として、個々の211801Aに、少なくとも1000発の突撃電流を喰らわせたことになる。
801Aはほとんど交換しないので、2000発以上になるだろう。
ところがまだ、ラッシュカレントそのものによる異常な兆候や、健康被害の兆候を経験したことはない。

この経験から、もともと健全な状態のトリエーテッドタングステン・フィラメントであれば、突入電流の害について、神経質になる必要はまったくないと思う。
本機では、フィラメントの突入電流を緩和する仕掛けはいっさい設けていない。

真空管のフィラメントは、その材質が何であれ、冷えている時の抵抗値は低い。
そのため、定電圧点火のフィラメントの電源ON時には、大きな突入電流(ラッシュカレント)が流れる。
しかしラッシュカレントの先頭のもっとも過大電流が流れる短時間に、フィラメントのヒーターが過度に赤熱したり白熱することはない。
昔のトランスレス・ラジオのように、数本の真空管のヒーター(つまり熱慣性が異なるものを)をシリーズに接続するなどの、変則的なことをしないかぎり、先の不良MT管のように、瞬間的に高温になるような現象は起こらない。
金属が多少なりと蒸発するほどの温度に達する前に、全体の温度が上がり、ラッシュカレントの過大先頭部が過ぎ去るためではないかと思う。

もう一つ経験話をすると、211とは過去通算30年間ぐらい付き合っているが、フィラメントが切れた、切った、ということは一度もない。
専門書によれば、元来、211のような送信管規格の球における、トリエーテッドタングステン・フィラメントの寿命は、酸化皮膜フィラメントにくらべ格段に長い、ということになっている。
801Aのフィラメントが切れたのは、今までに3度ある。
当然ながらステレオなので、それぞれの球は2本ずつ稼動している。
音を出している途中で、静かに、本当に静かに息をひきとった。
少しの間、片チャンネルから音が出ていないことに気付かなかったほどである。どちらも電源ON時に切れたのではない。
寿命を心配して買い込み、屋根裏部屋に隠匿してある予備球の数は、私がこの世に何回生まれ変わっても使い切れないほどである。


傍熱管に突入電流の影響さらになし
突入電流(ラッシュカレント)は、先の「ピカ球」のように、目立って光ったり、赤熱するような不良球でないかぎり、フィラメントやヒーターには悪影響を与えない。
これは直熱管だけではなく傍熱管も同じである。
傍熱管はスリーブの熱慣性があるため、直熱管よりずっと強い。
MT管のような小さい球も、KT-88のような大きな球も同じである。


*ピカアンプ定常DSC_9322.jpg


<写真5: 初代のGECのKT-88は20年ほど使用して全球交換した。これは2代目>
**交換した古い球もゲッターは少なくなっているが、全球、まだまだ十分に健全であった**





たとえばGECのKT-88
普通この球は、ヒータートランスの2次巻線から直接点火されるため、電源インピーダンスが低い最も過酷なラッシュカレントが流れる。
しかしこの球は、長期間使い込んでゲッターがなくなっても、ヒーターはビクともしない。
私のAIRTIGHT ATM-2(写真5)のGECKT-88も、ゲッターがほとんどなくなるほど使い込み、今の球は二代目である。
このことは当ブログの「STAX ELS-8X」のバックナンバーのどこかに書いた覚えがある。
ゲッターはほとんどなくなったが、エミッションはまだまだ十分あり、つまりヒーターは健全である。
多くのKT-88ユーザーが、同じような経験をしている。
要するに、最も過酷な突入電流が発生するヒータートランス直結の交流点火でも、生涯、ラッシュカレントの影響などはない。
これが事実であり、現実である。


突入電流の警告はまず交流点火にこそ
トランスのヒーター巻線のインピーダンスは大変低い。
そのため、交流点火は他のどの点火法式よりも突入電流が大きい。
その意味から、突入電流の害の警鐘を鳴らすのであれば、直流点火における定電圧点火より先に、交流点火にこそ向けるべきである。
ただし私の見解は上記のように、いずれの点火方式も、元が健全な球であれば、突入電流に関する不都合は発生しない。
そのお節介は必要ないだろう。





破滅に向かってアクセルを踏む定電流点火

初期状態が健全であるヒーターを前提に、直熱管・傍熱管ともに、定電流点火は、稼動時間が増すに従い、ヒーターの寿命を縮める方向に作用する。
先の「オームの法則無視しちゃダメ」の最たる事例である。

「定電流点火」のエネルギー源は、ヒーターの健康ライフにやさしくない。
このエネルギー源は、歳をとればとるほど身(発熱体)を細らせる。
さらに、細った部分を狙ってエネルギーが集中する。
オームの法則、「エネルギーW=Iの2乗×R」。
寄る年波に痩せてくる体に、この「電流値Iの2乗×抵抗値R」がボデーブローのように効いてくる。
与えられるI(電流値)は常に一定であり手加減はない。
細った発熱体の部位には、健全な部位より高いエネルギーが集中して温度が上がり、発熱体の蒸発が加速される。

一段と細った部分のR(抵抗値)はさらに上がる。
そしてこの悪循環により、破滅に向かって容赦なく加速のアクセルが踏まれる。
そしてついには断線・ご臨終となる。

ヒーターは全長にわたって完全均一ではないため、全体が平均して蒸発するわけではない。
不純物や材料のムラ、傷などがあると、その部分の抵抗値が高くなり、発熱温度が高くなる。
その部分は他の部分よりも早く発熱体の蒸発が進むため、さらに細くなって抵抗値が上がる。

オームの法則「I=V/R」。
電流値Iが一定ということは、抵抗値Rが高くなれば、点火電圧Vが比例して上がることになる。
この動作を自動的に行うのが「定電流点火」である。
そうでないものは、定電流点火とは呼ばない。


たとえば801A
いま、定電流点火中であったとしよう。
そのとき、801A(健全時)のヒーター電圧は7.5Vであったとする(このときの電流は設定された所定の値)。
さて、そのヒーターが経時消耗により抵抗値が10%増加したとする。
そうなった場合、定電流点火回路は、801Aのヒーター電圧を自動的に8.25Vに上昇させる。
当たり前の「オームの法則」であり、ヒーター電圧を8.25Vに上げなければ、所定の電流値を保つことはできない(ヒーターの電気抵抗の高温時の温度係数の変化を考慮した厳密な話は無視する)。
定電流点火回路にどのような仕掛けがあっても一切関係なく、801Aのヒーター電圧は自動的に8.25Vに上昇する。
逆に、自動的に8.25Vに上昇しなければ、それは「定電流点火」とは呼ばない。
801Aのヒーターに流れる電流と、ヒーターの両端子(ピン)にかかる電圧、それとヒーターの両端子間の抵抗、の3つのパラメーターのみで決まる「オームの法則」である。


リニアに変化しなければ「定電流点火」とは呼ばない
「ヒーターの抵抗が高くなっても、どんどん危険な状態へと進行することは定電流回路が抑制する」といったような記事も見受けられるが意味不明である。
もし、何らかの電圧制限や電流制限を自動的に行うような回路のことを指しているのであれば、過大電流や過大電圧の制限なら理解できるが、そうでなければ「定電流点火」という呼称そのものが不適当で紛らわしい。
電流・電圧の変化の実体を表す適当な呼称を考えるべきである。
その前に、そういった直流電源の、電流・電圧がどのように変化するのか、また、そのような特性を持たせた直流電源回路がなぜ必要なのか、その点を説明することが先決だろう。


元来真空管のヒーター規格は「電圧」指定
定電流点火では、ヒーターの抵抗値が10%増加すれば、健全時の10Vは11Vに、健全時の7.5Vは8.25Vに自動的に上昇する。
ほとんどの管球アンプ愛好家は、真空管をいたわる気持ちを持っている。
そういったファンが、「だいぶ使い込んだ球だから」という理由で、たとえば211を11Vで、また801Aを8.25Vのフィラメント電圧で点火するだろうか?
これが「定電流点火」では自動的にそうなる。

たとえば、そろそろ寿命が近づいてエミッションが低下した球があるとする。
その球のヒーター電圧を上げてエミッションを稼いだら、音が大きくなり音質もよくなった(以前の状態に戻った)、ということはある。
戦前のラジオ受信機などでは、とりあえずの延命策として、電源トランスのタップを100Vから90Vに切り替えて、出力電圧を上昇させるなどの無茶をやっていた。
当ブログ内のカテゴリー「いとし子」の「爺様の古ラジオ」のラジオも、最初に蓋を開けたらヒューズが90Vタップに入っていた。
それを見て、思わずニヤッとしたものである。


*コンドル背景DSCN0029.jpg*コンドルTR_DSCN0022.jpg

   <写真6:「爺様の古ラジオ」のシャーシと電源トランスのAC電圧切り替え用ヒューズホルダー>
          **修復前の状態。真空管トップの配線の被覆が破れている**



そもそも真空管のフィラメントやヒータ―の規格は、「印加電圧」によって定められている。

801AVT-62)のフィラメントには7.5Vを印加せよ、である。

そして「7.5V供給時のフィラメント電流は(代表値として)1.25Aである」との規格である。

801AVT-62)のフィラメントには1.25Aを流せ、といっているわけではない。

定電流点火、すなわち常に「1.25A」を流す電源を使い、R社の801Aと、H社の801Aと、T社の801Aとを、順に挿し換えたとしよう。
この3本すべてのフィラメントの両端電圧が7.5Vを指す、と考えている方がおられるかもしれないが、各社揃って、それほどの品質管理をやることは不可能だろう。


7.5V時には1.25A、逆の1.25A時には7.5V?
直熱管であれ傍熱管であれ、なるべく少ない電力で、カソードから十分なエミッションを得るのは容易ではなかった。
各メーカーは、その材料の開発に鎬を削ってきた。
真空管開発史は、優秀なエミッションが得られるカソード材料の開発史でもあった。
タングステン、トリエーテッド・タングステン、酸化皮膜等々。
合金材料や化学物質など、金属や化学の技術を総動員してカソードは作られている。
要するにカソードの材料や製造法は、当時の各メーカーの企業秘密であり、トップシークレットであったはずである。


定電流点火の最適電流値はどこにある
私たちが使う真空管は、メーカーも違えば時代も違う。
7.5V印加時には1.25Aきっかり、逆に1.25Aを流せば7.5Vきっかり、などはあり得ないだろう。
1.25Aの定電流点火によるR社の801Aのフィラメント電圧は8.0Vであり、H社は7.0Vであるかもしれない。
8.0Vなどの電圧で点火させるのは勘弁願いたいが、定電流点火にこだわるならしかたがない。
それが「オームの法則」である。


(ここは大変重要なことです)
真空管製造メーカーは、規定の「電圧」をヒーターに印加した時に、規定のエミッションが得られるよう、ヒーターの作りを調整しているはずである。 (規定の「エミッション」が得られるよう、であり、規定の「電流」が得られるよう、ではないことが重要ポイント)
さて、このことから、定電流点火における個々の真空管の最適電流値を決定すること自体が不可能であることが分かると思う。




「定電流点火は音がよい」は「真」か

定電流点火は、フィラメントには非情である。
この方式がフィラメントの寿命を延ばすことなどあり得ない。
それでも音響的な優位性があるのであれば、説として納得もできるが、その論拠も仮説も聞かれない。
説明がないのは当然だと思う。

フィラメント点火の意味は、フィラメントを熱電子が盛んに飛び出す温度に加熱するための単純な電気加熱である。
定電圧点火すれば、たとえ電灯線のAC100Vが大幅に変動したとしても、フィラメントの電圧は一定に保たれる。
それはすなわち、フィラメントの電流も常に一定に保たれることを意味する。
健全なフィラメントを、定電圧で加熱するのである。
フィラメントが健全であるかぎり、その電流が一定であるのは当然である。

つまり定電圧点火においても、フィラメントには定電流が流れる。

1日、1週間、1ヶ月・・・、フィラメントが健全であるかぎり、それを定電圧で加熱しているかぎり、フィラメントには常に一定の定電流が流れ続ける。
これも当たり前の話である。
電流が変動する要素など、フィラメントに異常が起こらないかぎりはない。

逆に定電流を流せばフィラメントの両端には定電圧が発生する。
この場合は「逆も真なり」、である。
定電圧点火と定電流点火。
正常なフィラメントであるかぎり、フィラメントにはどちらの方式でも同じ定電圧が発生し、定電流が流れる。
このように考えてもなお、両者に音の違いが出るのだろうか。
あるいは信号増幅の動作の影響で、定電圧点火の場合は、フィラメント電流が変化するとでもいうのだろうか。

直流電源部の作り方によっては、ノイズが出るとかノイズを拾うとか、また直流の質が悪いとかにより、音質に影響を与えることもあるだろう。
しかしここでは音響的にハイエンドの領域の話しをしている。
ノイズや低品質による影響が出る電源装置などは俎上に無く、論外である。

直流電源装置の「作り」に起因するものでなく、定電圧と定電流そのものの違いにより、果たして音に違いが生じるか?
両方式による真空管内の電子の流れや、フィラメントを加熱する電流そのものに、どのような違いがあるのか私には理解できない。
当然ながら両者の直流電源装置には、必ず回路や構造、作りなどの違いがあり、そこには音に何らかの影響を与えるファクターがあってもおかしくはない。
その定電圧/定電流に関係ない部分の影響を、いい音・悪い音、人によって様々に感じるのかもしれない。

どちらにせよ「最終アンプ」には、「フィラメントはこれで安心」の3端子レギュレーターを採用している。
そのご利益なのか20余年、今も毎日「いい音」で、「ご長寿フィラメント」が元気に輝いている。


(「最終アンプ」(7の1)定電流点火、寿命と音質」 おわり)

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