いとし子(9) 6BQ5スケルトン化ステレオアンプ [オーディオのいとし子たち]
オーディオ仲間、この透明アクリルケースに換装した50年モノのトリオのアンプを見て曰(いわ)く。
ほんま、アホやわ。
と、ちょっと突き放して呆れ返ったように言われるようになれば、道楽も「関脇」クラスに昇進か。
当ブログの「いとし子(4)6BQ5ブースター付き電池管ラジオ」のときは、ブースターONのとき、音量に合わせてピコピコダンスを踊る「棒状マジックアイ」6E2を意味も無く光らせて喜んだ。
そのときは、
アホやな。
と言われたが、今回のニュアンスは「アホ」の断定度が高いような気がする。
<写真1:透明アクリルケースに換装。トリオWX-111ステレオアンプ>
**もとの鉄板ケースを、3mm厚の透明アクリル板に置き換えた。出力管6BQ5の発熱は、2個の小型DCファンで対応(空冷ファンについては「いとし子(4)6BQ5ブースター付き電池管ラジオ」を参照)**
おっちゃん、中が見えたら、なんかいいことあるん?
おお見てくれるか。どや、このMT管の砲列。
・・・???
あんたら若い子は知らんやろけど、これはな、真空管ちゅうもんや。
と、ゆうても分からんやろな・・・。
<写真2:見るだけでも楽しいWX-111>
**魅力がいまいちだったWX-111が大変身。どや、このMT管の砲列。電源トランスの隣が出力管6BQ5。奥の右端がドライバー管6BA6**
もう一つのトリオ6BQ5sトライアンプ
このトリオWX-111の回路図面の記載には、1966年1月発売「AM-FMオートマチック・ステレオトライアンプ」¥34,900とある。
「オートマチック」とは、FMのモノラル放送とステレオ放送の受信モードが自動的に切り替わる、という意味である(今の人には意味不明)。
トリオは現在のKENWOODの前身であり、当時はラジオの部品メーカーを脱し、総合オーディオメーカーへ躍進する途上にあった。
WX-111は、私のオーディオ史の原点となるトリオW-10の何代目かの後継機である。
当ブログ「いとし子(3)トリオ6BQ5シングルアンプ」に登場した、「トリオW-10ステレオ・トライアンプ」は、その回路図面の記載に、1961年6月発売「AM-FMステレオトライアンプ」¥24,000とある。
つまりWX-111はW-10の5年後に登場している。
2つのトリオ・トライアンプ 進化と後退
進化
この両者の大きな違いは2点。
一つは、W-10はFMがモノラルであり、WX-111はステレオになったこと。
もう一つは、W-10はフォノイコライザーなし、WX-111にはMMカートリッジ対応フォノイコライザーが搭載されたこと。
後退
上の2つは大きな進歩であるが、50年後の真空管道楽おやじの視点で眺めると、どうであろうか。
実に残念、むしろ、けしからん「退化」が散見される。
と憤ってみても、所詮は真空管おやじの戯言であり、理解者は限りなくゼロに等しい。
×まず、「緑に光る目玉」がない。
W-10の意匠の中心であり、強烈に人を惹きつけるマジックアイが、安っぽい小さなメーターに取り替えられている。
「寿命の心配がなく、チューニングもしやすくなった」などの屁理屈で、当時の人はごまかせても、花粉症で涙目ではあるが、道楽おやじの目は節穴ではないゾ。
×それに「整流管」はどうした。
真空管式のチュナー付きアンプだからこそ「価値がある」のに、蓋を外してみたら整流管がない。
なに? 整流管よりずっと高性能の最新式ダイオードを採用した?
「整流管を使わない管球アンプなんて、山葵(さび)ぬきの鮨(すし)より喰えない」、といったクレームが山ほど来ているだろう。
そのような話は一切ございません。当機種は、優良顧客の皆様からは、たいへんご好評いただいております。はい。
・・ま、まだあるが・・。
×AMとFMのバリコンや、チュナー回路の一部を共用しているではないか。
以前の機種ではAMとFMの別々のチューニング・ダイヤルがあったが、これは1つではないか。
AMとFMを切り替えるたびに、グルグルとやらねばならない。
老人のボケ防止の指運動をさせるつもりなら、余計なお世話である。
このおやじには、まだ10年早い。
お役には立てませんが、ほかにご不満な点がございましたらこの際どうぞ。
・・・。
<写真3:W-10とWX-111の外観>
**左W-10。右WX-111。WX-111ではチューニング・アシストのマジックアイが「安っぽいメーター」に。また、W-10ではAMとFMのチューニングダイヤルが左右に独立して付いていたが、合理化されて右上の1つなり、周波数目盛り盤も共用になった**
<写真4:W-10のマジックアイ6E5>
**選局ダイヤルを回して扇形の陰が狭くなれば同調点。「マジックアイ付き」は、戦後の5球スーパーラジオのセールスポイントであり盛んに使われた**
マジックアイ6E5の蛍光体の寿命は短く、規定の電圧で使用した場合は、光量が半減するまで数100時間と言われている。
私は200V以下にさげて長寿対策をしている。
<写真5:WX-111のチューニングメーターと周波数文字盤>
**マジックアイに比べればインパクトは少ないが、ベッドルームで明かりを落として眺めれば、まんざら悪くもない。文字盤は発光パネルではなく、ガラスに文字を印刷したものであり、そのガラス端の側面から豆電球の光を入射している。この時代の文字盤は、心を込めてデザインされており美しい**
<写真6:WX-111の内部>
**5年先発のW-10と比較すると、WX-111では整流管が「退化」してダイオードに置き替わった。バリコンが1つになり、チュナー回路の一部がAM-FM共用となった。左側写真の中央部には、FMのマルチプレックス部(ステレオ復調部)と、その右隣にはMMカートリッジ用のフォノイコライザー回路が新設されている。フォノイコライザーの黄色の素子は、元のカップリングコンデンサーが不良ぎみのため、交換したもの**
<写真7:出力管6BQ5の熱を排出する小型DCファン>
換気穴などを設けてもアクリルの熱対策には不十分。
強制換気用ファンが必須である。
DCファンは電磁ノイズ発生源であり、その対策など詳しくは「いとし子(4)6BQ5ブースター付き電池管ラジオ」を参照願いたい。
なおWX-111の背面には、電源スイッチ連動のACコンセントが設けられているので、DCファンの電源(DC2V~5V可変)はそこから取っている。
WX-111より5年古いW-10の内部の様子。
<写真8:W-10の内部>
**電源トランスの右側が整流管6CA4。出力トランスに挟まれて6BQ5。FM用(左)、AM用(右)のバリコンと、それぞれの文字盤、それにチューニング・ダイヤルが左右にある**
性能は向上 「趣」は後退
1960年前後のアンプやレシーバー(AMやFMのチュナーを内臓したアンプの呼称)のデザインは、内外ともに趣(おもむき)があるものが多い。
時代が下るに従い、世間のオーディオへの感心が徐々に高まり、各種コンポーネントの性能は、どんどん向上していった。
その性能と引き換えに後退していったのが、それらのセットが醸し出す趣であり、造形美であり、面白さである。
実直さとか、味のある形とか、そういった個所が「合理化」され「洗練」され、失われていった。
このような現象はオーディオ機器だけではなく、身の回りのほとんどの物に当てはまるのではないかと思う。
5年の間の「進化」と「後退」
W-10「トリオW-10ステレオ・トライアンプ」は、当ブログ「いとし子(3)トリオ6BQ5シングルアンプ」に登場した私のオーディオ史の原点である。
1961年の発売であり、トリオが総合オーディオメーカーへと成長していこうとする初期の時代の「AM-FMチュナー付きアンプ」である。
使われている部品類には、時代の貧しさを感じさせるものも一部にはあるが、全体の作りを見ると、当時のトリオが、ステレオアンプに懸けた意気込みが伝わってくる。
今日の日記の主人公は、その5年後のWX-111。
W-10とは同じコンセプトの「FM-AMチュナー付きステレオアンプ」であるが、やはり5年の進化と洗練を見ることができる。
型名、「W」と「WX」の違いの「X」は、FM放送のMultiplex(多重、つまりFMステレオ対応)を表すXである。
「趣(おもむき)」の退化をスケルトンで一発逆転
とにかくWX-111は真空管の数が多い。
整流管はダイオードに替えられたが、それでも合計14本もある。
チュナー部に8本。
フォノイコライザー部に2本。
メインアンプ部に4本。
そしてこの14本が、電源ONで全球点灯する。
たとえばCDプレーヤーをAUX入力で聴いている際にも、用のないフォノイコライザー部やチュナー部の真空管まで通電されている。
よし、常に14本のMT管に灯(ひ)が燈るなら、その景観を楽しもうではないか。
バリアブル・コンデンサー(可変容量コンデンサー)という名称どおり、羽が出たり入ったり、実に分かり易い構造のバリコンの回転も見ることができる。
真空管と仲良く並んだ、アルミ色に燦然と輝くIFTも拝める。
「シースルー」でいこう!
となったわけである。
アクリル職人の技を磨いた猫ガード
出来上がりの気品は「ガラス」で作る方が格段に上であるが、私のガラス細工の技能はゼロである。
アクリルを使うしか手はない。
要するに、写真1の右側の、元の鉄板ケースと同寸法のものを、アクリル板で作るわけである。
その程度の細工なら簡単・・、と思うが、これが結構アクリル職人の技を必要とする。
幸い、アクリル加工の技能は、そこそこ習得していた。
我が家に生息するニャン子軍団、総勢6匹の「おかげ」、というか「せい」である。
いろいろな事情から、19時ごろから24時ごろの時間帯は、我がオーディオ部屋にも彼らの侵入を、やむなく許している。
そのため、それぞれの機器に有効な対ニャン子防御策を講じなければならない。
その一つの防御モデルとして、アクリル板で作ったカバーは、単純な発想でありながら、効果は絶大である。
<写真9:アクリル板細工による自作「ネコ・ガード」作品例>
**手前から、MIDASミキシング卓、OTARI BPL-10、OTARI BX-55、DENON DN-3602RG**
ミキシング卓は、プロ用機器のバランス入出力をアンバランス入出力に変換するのが主目的(プリアンプAccuphase C-280にバランス入力がないので、やむなく使用)。
また、「いとし子」というか「骨董」というか、それらの機器が多すぎるので、音質的「序列」が低いグループの交通整理のためにも使わざるを得ない。
ニャン子は、この卓の上も平気で歩き回る。
卓を覆うアクリル板は、奥の両端がヒンジになっており、上方に大きく開けることができる。
アクリルの接着は一発勝負
これらの「作品」は、DENONのテープレコーダーの既製カバーを除き、私の手作りである。
市販のアクリル板の厚みには、1mm、2mm、3mm、5mmなどがあり、厚みに応じた切断の方法やコツがある。
接着剤は二塩化メチレンを主成分とする揮発性の高いサラサラの溶剤を使う。
この接着剤は超速乾性のため、やり直しがきかない「一発勝負」であり、細心の注意が必要である。
接着強度の確保には、接着面の、面対面の合わせ精度が要求されるが、接合強度は非常に強固である。
逆にこういった性質は、段取りさえきちんとしておけばスピーディーな作業が可能であり、大変便利である。
と、まあアクリル細工に関しては、コンソール機器の上面カバーの簡単なものを手始めに、その後は今日の日記の冒頭の話に出てきた「いとし子(4)6BQ5ブースター付き電池管ラジオ」などを作り、少し手の込んだものも攻略できるようになった。
そして今回、WX-111のシースルー化に挑戦してみたが、運よく、角々や縁の合わせ目も精度よく決まり、「まあまあよし」の出来となった。
<写真10:アクリルケースの6BQ5ブースター付きスケルトン電池管ラジオ>
**アマチュア工作でも、アクリルであれば何とか格好がつけられる。ここで試みた出力管6BQ5の廃熱・冷却用の小型DCファンをWX-111にも採用した。空冷ファンについて詳しくは「いとし子(4)6BQ5ブースター付き電池管ラジオ」を参照。おバカな無意味の、ぴこぴこマジックアイ6E2が後方に見える**
50年前のW-10とWX-111、そのメインアンプ部の回路
W-10の音はその日記にも書いたが、W-111の場合も同様に、大変心地よく耳に馴染む音である。
参考までに、W-10とWX-111のオーディオ信号増幅部の回路を紹介しておきたい。
50年前、オーディオ時代幕開け当時の、中・高級(といったクラスか)国産ステレオアンプの標準的な回路である。
これらは、昔、KENWOODさんからファックスで送っていただいた回路図の一部分である。
<図1:W-10(左)とWX-111(右)のオーディオ信号増幅部の回路>
**トーンコントロール部や、ドライバー管のカソード・バイパスコンデンサーなどに多少の違いがみられる**
さて、このスケルトンWX-111。
MT管の砲列の灯を眺めるのも楽しいが、ラジオの音も気持ちいい。
ただ、このご時世、MT管14本、「消費電力130W」がちょっと重い。
その幸せな気持ちにも後ろめたさが残る。
おっちゃん、中が見えたら、なんかいいことあるん?
そうや。
真空管の赤い灯(ひー)を見てるだけで幸せな気分になれるやろ。
・・??
見てるだけで幸せになるん? 世話ないなあ。
(「いとし子(9)トリオ6BQ5sスケルトン・ステレオアンプ」 おわり)
ほんま、アホやわ。
と、ちょっと突き放して呆れ返ったように言われるようになれば、道楽も「関脇」クラスに昇進か。
当ブログの「いとし子(4)6BQ5ブースター付き電池管ラジオ」のときは、ブースターONのとき、音量に合わせてピコピコダンスを踊る「棒状マジックアイ」6E2を意味も無く光らせて喜んだ。
そのときは、
アホやな。
と言われたが、今回のニュアンスは「アホ」の断定度が高いような気がする。
<写真1:透明アクリルケースに換装。トリオWX-111ステレオアンプ>
**もとの鉄板ケースを、3mm厚の透明アクリル板に置き換えた。出力管6BQ5の発熱は、2個の小型DCファンで対応(空冷ファンについては「いとし子(4)6BQ5ブースター付き電池管ラジオ」を参照)**
おっちゃん、中が見えたら、なんかいいことあるん?
おお見てくれるか。どや、このMT管の砲列。
・・・???
あんたら若い子は知らんやろけど、これはな、真空管ちゅうもんや。
と、ゆうても分からんやろな・・・。
<写真2:見るだけでも楽しいWX-111>
**魅力がいまいちだったWX-111が大変身。どや、このMT管の砲列。電源トランスの隣が出力管6BQ5。奥の右端がドライバー管6BA6**
もう一つのトリオ6BQ5sトライアンプ
このトリオWX-111の回路図面の記載には、1966年1月発売「AM-FMオートマチック・ステレオトライアンプ」¥34,900とある。
「オートマチック」とは、FMのモノラル放送とステレオ放送の受信モードが自動的に切り替わる、という意味である(今の人には意味不明)。
トリオは現在のKENWOODの前身であり、当時はラジオの部品メーカーを脱し、総合オーディオメーカーへ躍進する途上にあった。
WX-111は、私のオーディオ史の原点となるトリオW-10の何代目かの後継機である。
当ブログ「いとし子(3)トリオ6BQ5シングルアンプ」に登場した、「トリオW-10ステレオ・トライアンプ」は、その回路図面の記載に、1961年6月発売「AM-FMステレオトライアンプ」¥24,000とある。
つまりWX-111はW-10の5年後に登場している。
2つのトリオ・トライアンプ 進化と後退
進化
この両者の大きな違いは2点。
一つは、W-10はFMがモノラルであり、WX-111はステレオになったこと。
もう一つは、W-10はフォノイコライザーなし、WX-111にはMMカートリッジ対応フォノイコライザーが搭載されたこと。
後退
上の2つは大きな進歩であるが、50年後の真空管道楽おやじの視点で眺めると、どうであろうか。
実に残念、むしろ、けしからん「退化」が散見される。
と憤ってみても、所詮は真空管おやじの戯言であり、理解者は限りなくゼロに等しい。
×まず、「緑に光る目玉」がない。
W-10の意匠の中心であり、強烈に人を惹きつけるマジックアイが、安っぽい小さなメーターに取り替えられている。
「寿命の心配がなく、チューニングもしやすくなった」などの屁理屈で、当時の人はごまかせても、花粉症で涙目ではあるが、道楽おやじの目は節穴ではないゾ。
×それに「整流管」はどうした。
真空管式のチュナー付きアンプだからこそ「価値がある」のに、蓋を外してみたら整流管がない。
なに? 整流管よりずっと高性能の最新式ダイオードを採用した?
「整流管を使わない管球アンプなんて、山葵(さび)ぬきの鮨(すし)より喰えない」、といったクレームが山ほど来ているだろう。
そのような話は一切ございません。当機種は、優良顧客の皆様からは、たいへんご好評いただいております。はい。
・・ま、まだあるが・・。
×AMとFMのバリコンや、チュナー回路の一部を共用しているではないか。
以前の機種ではAMとFMの別々のチューニング・ダイヤルがあったが、これは1つではないか。
AMとFMを切り替えるたびに、グルグルとやらねばならない。
老人のボケ防止の指運動をさせるつもりなら、余計なお世話である。
このおやじには、まだ10年早い。
お役には立てませんが、ほかにご不満な点がございましたらこの際どうぞ。
・・・。
<写真3:W-10とWX-111の外観>
**左W-10。右WX-111。WX-111ではチューニング・アシストのマジックアイが「安っぽいメーター」に。また、W-10ではAMとFMのチューニングダイヤルが左右に独立して付いていたが、合理化されて右上の1つなり、周波数目盛り盤も共用になった**
<写真4:W-10のマジックアイ6E5>
**選局ダイヤルを回して扇形の陰が狭くなれば同調点。「マジックアイ付き」は、戦後の5球スーパーラジオのセールスポイントであり盛んに使われた**
マジックアイ6E5の蛍光体の寿命は短く、規定の電圧で使用した場合は、光量が半減するまで数100時間と言われている。
私は200V以下にさげて長寿対策をしている。
<写真5:WX-111のチューニングメーターと周波数文字盤>
**マジックアイに比べればインパクトは少ないが、ベッドルームで明かりを落として眺めれば、まんざら悪くもない。文字盤は発光パネルではなく、ガラスに文字を印刷したものであり、そのガラス端の側面から豆電球の光を入射している。この時代の文字盤は、心を込めてデザインされており美しい**
<写真6:WX-111の内部>
**5年先発のW-10と比較すると、WX-111では整流管が「退化」してダイオードに置き替わった。バリコンが1つになり、チュナー回路の一部がAM-FM共用となった。左側写真の中央部には、FMのマルチプレックス部(ステレオ復調部)と、その右隣にはMMカートリッジ用のフォノイコライザー回路が新設されている。フォノイコライザーの黄色の素子は、元のカップリングコンデンサーが不良ぎみのため、交換したもの**
<写真7:出力管6BQ5の熱を排出する小型DCファン>
換気穴などを設けてもアクリルの熱対策には不十分。
強制換気用ファンが必須である。
DCファンは電磁ノイズ発生源であり、その対策など詳しくは「いとし子(4)6BQ5ブースター付き電池管ラジオ」を参照願いたい。
なおWX-111の背面には、電源スイッチ連動のACコンセントが設けられているので、DCファンの電源(DC2V~5V可変)はそこから取っている。
WX-111より5年古いW-10の内部の様子。
<写真8:W-10の内部>
**電源トランスの右側が整流管6CA4。出力トランスに挟まれて6BQ5。FM用(左)、AM用(右)のバリコンと、それぞれの文字盤、それにチューニング・ダイヤルが左右にある**
性能は向上 「趣」は後退
1960年前後のアンプやレシーバー(AMやFMのチュナーを内臓したアンプの呼称)のデザインは、内外ともに趣(おもむき)があるものが多い。
時代が下るに従い、世間のオーディオへの感心が徐々に高まり、各種コンポーネントの性能は、どんどん向上していった。
その性能と引き換えに後退していったのが、それらのセットが醸し出す趣であり、造形美であり、面白さである。
実直さとか、味のある形とか、そういった個所が「合理化」され「洗練」され、失われていった。
このような現象はオーディオ機器だけではなく、身の回りのほとんどの物に当てはまるのではないかと思う。
5年の間の「進化」と「後退」
W-10「トリオW-10ステレオ・トライアンプ」は、当ブログ「いとし子(3)トリオ6BQ5シングルアンプ」に登場した私のオーディオ史の原点である。
1961年の発売であり、トリオが総合オーディオメーカーへと成長していこうとする初期の時代の「AM-FMチュナー付きアンプ」である。
使われている部品類には、時代の貧しさを感じさせるものも一部にはあるが、全体の作りを見ると、当時のトリオが、ステレオアンプに懸けた意気込みが伝わってくる。
今日の日記の主人公は、その5年後のWX-111。
W-10とは同じコンセプトの「FM-AMチュナー付きステレオアンプ」であるが、やはり5年の進化と洗練を見ることができる。
型名、「W」と「WX」の違いの「X」は、FM放送のMultiplex(多重、つまりFMステレオ対応)を表すXである。
「趣(おもむき)」の退化をスケルトンで一発逆転
とにかくWX-111は真空管の数が多い。
整流管はダイオードに替えられたが、それでも合計14本もある。
チュナー部に8本。
フォノイコライザー部に2本。
メインアンプ部に4本。
そしてこの14本が、電源ONで全球点灯する。
たとえばCDプレーヤーをAUX入力で聴いている際にも、用のないフォノイコライザー部やチュナー部の真空管まで通電されている。
よし、常に14本のMT管に灯(ひ)が燈るなら、その景観を楽しもうではないか。
バリアブル・コンデンサー(可変容量コンデンサー)という名称どおり、羽が出たり入ったり、実に分かり易い構造のバリコンの回転も見ることができる。
真空管と仲良く並んだ、アルミ色に燦然と輝くIFTも拝める。
「シースルー」でいこう!
となったわけである。
アクリル職人の技を磨いた猫ガード
出来上がりの気品は「ガラス」で作る方が格段に上であるが、私のガラス細工の技能はゼロである。
アクリルを使うしか手はない。
要するに、写真1の右側の、元の鉄板ケースと同寸法のものを、アクリル板で作るわけである。
その程度の細工なら簡単・・、と思うが、これが結構アクリル職人の技を必要とする。
幸い、アクリル加工の技能は、そこそこ習得していた。
我が家に生息するニャン子軍団、総勢6匹の「おかげ」、というか「せい」である。
いろいろな事情から、19時ごろから24時ごろの時間帯は、我がオーディオ部屋にも彼らの侵入を、やむなく許している。
そのため、それぞれの機器に有効な対ニャン子防御策を講じなければならない。
その一つの防御モデルとして、アクリル板で作ったカバーは、単純な発想でありながら、効果は絶大である。
<写真9:アクリル板細工による自作「ネコ・ガード」作品例>
**手前から、MIDASミキシング卓、OTARI BPL-10、OTARI BX-55、DENON DN-3602RG**
ミキシング卓は、プロ用機器のバランス入出力をアンバランス入出力に変換するのが主目的(プリアンプAccuphase C-280にバランス入力がないので、やむなく使用)。
また、「いとし子」というか「骨董」というか、それらの機器が多すぎるので、音質的「序列」が低いグループの交通整理のためにも使わざるを得ない。
ニャン子は、この卓の上も平気で歩き回る。
卓を覆うアクリル板は、奥の両端がヒンジになっており、上方に大きく開けることができる。
アクリルの接着は一発勝負
これらの「作品」は、DENONのテープレコーダーの既製カバーを除き、私の手作りである。
市販のアクリル板の厚みには、1mm、2mm、3mm、5mmなどがあり、厚みに応じた切断の方法やコツがある。
接着剤は二塩化メチレンを主成分とする揮発性の高いサラサラの溶剤を使う。
この接着剤は超速乾性のため、やり直しがきかない「一発勝負」であり、細心の注意が必要である。
接着強度の確保には、接着面の、面対面の合わせ精度が要求されるが、接合強度は非常に強固である。
逆にこういった性質は、段取りさえきちんとしておけばスピーディーな作業が可能であり、大変便利である。
と、まあアクリル細工に関しては、コンソール機器の上面カバーの簡単なものを手始めに、その後は今日の日記の冒頭の話に出てきた「いとし子(4)6BQ5ブースター付き電池管ラジオ」などを作り、少し手の込んだものも攻略できるようになった。
そして今回、WX-111のシースルー化に挑戦してみたが、運よく、角々や縁の合わせ目も精度よく決まり、「まあまあよし」の出来となった。
<写真10:アクリルケースの6BQ5ブースター付きスケルトン電池管ラジオ>
**アマチュア工作でも、アクリルであれば何とか格好がつけられる。ここで試みた出力管6BQ5の廃熱・冷却用の小型DCファンをWX-111にも採用した。空冷ファンについて詳しくは「いとし子(4)6BQ5ブースター付き電池管ラジオ」を参照。おバカな無意味の、ぴこぴこマジックアイ6E2が後方に見える**
50年前のW-10とWX-111、そのメインアンプ部の回路
W-10の音はその日記にも書いたが、W-111の場合も同様に、大変心地よく耳に馴染む音である。
参考までに、W-10とWX-111のオーディオ信号増幅部の回路を紹介しておきたい。
50年前、オーディオ時代幕開け当時の、中・高級(といったクラスか)国産ステレオアンプの標準的な回路である。
これらは、昔、KENWOODさんからファックスで送っていただいた回路図の一部分である。
<図1:W-10(左)とWX-111(右)のオーディオ信号増幅部の回路>
**トーンコントロール部や、ドライバー管のカソード・バイパスコンデンサーなどに多少の違いがみられる**
さて、このスケルトンWX-111。
MT管の砲列の灯を眺めるのも楽しいが、ラジオの音も気持ちいい。
ただ、このご時世、MT管14本、「消費電力130W」がちょっと重い。
その幸せな気持ちにも後ろめたさが残る。
おっちゃん、中が見えたら、なんかいいことあるん?
そうや。
真空管の赤い灯(ひー)を見てるだけで幸せな気分になれるやろ。
・・??
見てるだけで幸せになるん? 世話ないなあ。
(「いとし子(9)トリオ6BQ5sスケルトン・ステレオアンプ」 おわり)
アクリルガード良いですね。闊歩する猫達の様子が浮かびます。
うちの子は天吊りスピーカーに登るのが好きです。
by いちあい (2014-03-29 11:55)
いちあいさん、ご訪問ありがとうございます。うちには、いくら叱っても反省しない、特別おバカが1匹いて、それがSTAX ELS-8Xのてっぺんに駆け上がります。
別のニャン子ですが、子猫のときは、クルクル回るテレコのリールを、カバーの上から飽きずに眺めていたのに、今では見向きもせず、そのカバーの上に置いてあげる座布団で寝るばかりです。ところで、天吊りスピーカーって、サラウンド用でしょうか。飛び乗る衝撃は、けっこう大きいですよね。
by AudioSpatial (2014-03-29 18:01)
スケルトンのアンプを売って頂けませんか?
by 佐々木政秋 (2019-03-08 09:42)
スーパーオーディオCDなんかもスケルトンにして売って頂けませんか?
by 佐々木政秋 (2019-03-08 09:44)