SSブログ

口伝(4)スピーカー・ケーブルは線材よりまず末端処理 ~これでよし! 実用的末端処理~ [口伝・オーディオ萬之事 ~父から息子たちへ~]



口伝・オーディオ萬之事 (くでんオーディオよろずのこと)
この日記は、父が息子に、オーディオについて語ったことを拾い集めた「拾遺集」です


スピーカー・ケーブルは線材よりまず末端処理。


STAX ELS-8Xコンデンサースピーカーに付属のスピーカー・ケーブル
STAX ELS-8X。
父が1987年に入手した、当時のSTAXのフラグシップ・モデル、大型コンデンサースピーカーのELS-8X。
このスピーカーに付属していたスピーカー・ケーブルは、とてもよいケーブルだった。
現在、お前の8Xに使っているのがそうだ。
修復した自分の8Xに使いたいが、ちょっと短すぎた。
今日はまず始めに、このスピーカー・ケーブルの話をしよう。


*新8X全景(縮小ト済)DSC_7442.jpg*8X背面下部全景DSC_0299.jpg


        <写真1:STAX ELS-8Xコンデンサースピーカーと背面下部のスピーカー端子>
**上記本文中の「お前の8X」(息子が昨年入手した8X)と、背面下部のSP端子。私が1987年に購入した8Xよりバージョンが1つ古い。SP端子が1987年のものよりかなり小さい。この息子の8Xはオーディオ部屋ではなく、別室に今もこの状態で居候している**



*8X背面下部右DSC_0312.jpg*8X背面下部SP端子DSC_0301.jpg
                <写真2:8Xに付属してきたスピーカー・ケーブル>
     **赤・白それぞれ独立した単独線。細目の撚り線が10組ほど、さらに撚り合わさっている**



スピーカーのエージング
1987年の昔の話、8Xが家にやって来た。
我が家で最初に鳴り響いた8Xの音は、記憶は薄いが、すでにそれなりの音質を持っていたように思う。
「エージング」(バーンイン。慣らし運転)については、すでに知っていると思うが、ほとんどすべてのオーディオ機器に、それによる変化が起こる。
特にスピーカーは、それが顕著に現れる。
ものによっては、また鳴らし方によっては、数ヶ月、あるいは1年以上のエージング期間が必要な場合もある。
憧れのスピーカーを購入し、自宅に納入され、初めてその音を聞いたとき、「こんなはずではなかった」と落胆する、という話はざらにある。
つまり、その機器本来の音が出るまでに、けっこう長い「慣らし運転」の期間が必要である。
8Xの場合は、それが比較的少なかったのではないかと思う。
昨年の8X修復直後の音出しでも、最初から十分に「こなれた」よい音が出たことからも推察できる。
このエージングの話は今日の主題ではないので、これ以上の深入りはしないでおこう。


スピーカーの評価は即断できない
このように、オーディオ機器には総じてエージング現象がある。
特に新品のスピーカーなどは、初めての音出しで、すぐさま評価などできるわけはない。
またもう一つの大きな問題として、スピーカーのセッティング(設置位置)がある。
平面型スピーカーに比べれば、一般的な箱型スピーカーの方が、設置位置の影響が大きい。
背面からも、まったく同一の逆相の音が放射される平面型スピーカー(プレーナー型スピーカー)は、「設置場所を選ぶスピーカーである」などと言うオーディオ・ライターが多いが、それは机上の空論である。
私の長年の経験上、平面型スピーカーより、一般的な箱形スピーカーの方が、設置位置の影響を、より多く受ける。
まあいずれにせよ、スピーカーを設置するには、その最適な置き方を探し出すまでに、かなりの期間、試行錯誤をすることになるだろう。

この話もまた、今日の主題ではないので、これ以上の深入りはしないでおこう。

さて、何日もかけて、スピーカーの位置やら、アンプとの組み合わせやら、ああだこうだと試行錯誤して、ようやく8Xの音を客観的に聴くことができるようになった。
なだかんだとやっているうちに、聞く耳にも、8Xを聴くための対応が、自然に出来てくる。
8Xに限らず、どのような形式のスピーカーであっても、最初はそういうものだ。
何日も一緒に暮らし、そのスピーカーに慣れなければ本当の音は分からない。
オーディオショップのスピーカー売り場で、あれこれと試聴して品選びをするのはやむを得ない。
しかし、その程度で十分な評価ができるわけではない。
つまり、そのスピーカーの本来の音が聴こえる(その音に気付く)ようになるには、自分のオーディオ環境の中に持ち込んで、何日も一緒に暮らす必要がある。
ハイクオリティーのスピーカーの再生音は、それほど奥が深い。
スピーカーについて、これらの話は、まあ、そういうものか、と頭に入れておくだけでいい。


いまひとつ、納得できる音が出ない
さて、8Xを鳴らすための最適な条件を探して、いろいろと試行錯誤しているうちに、どうもスピーカー・ケーブルに問題があるのかもしれない、と思うようになった。
以前から使っていたケーブルに交換して鳴らしてみると、かなり具合がいい。
ケーブルの芯線の断面積は、8Xに付属の方が数倍大きい。
常識的に考えれば、8Xに付属のケーブルは、従来から使っていたものと比べ、「勝るとも劣らない」はずである。


相談はしてみるもの
このことを、8Xの納入時にお世話になったSTAXの営業マン氏に話すと、けっこうあっさり、
「あっ、分かりました。ちょっと、これをやってみてください。見本を作って、その材料を郵送しますから」
みたいなことを言って、電話での話は簡単に終わった。


*封筒名前DSC_0336.jpg*封筒サンプルDSC_0341.jpg
      <写真3:STAXの営業マン氏が郵送してくれた末端処理の見本と使用する単線の銅線>
       **(おことわり)封筒の住所・電話番号は、今はない「STAX工業株式会社」です**


後日、届いたのが写真3の封筒と、その中身である。
簡単な内容の手紙もあったが、残念ながら、失くしてしまった。
同封されていた末端処理の見本は、「見れば説明の必要なし」の簡単なものであった。
写真3の見本のとおり、銅の単線を巻きつけてハンダ付けしただけのものである。
同封されていた単線は、元は1mほどの長さがあった。
単線の材質は同封の手紙に書いてあったが確かな記憶がない。
OFC(無酸素銅)系のものとの記憶があるが、かなり柔らかく、取り扱い、取り回しが楽にできる線材である(Fケーブルの芯線などより、はるかに柔らかい)。
この封筒は、長く工具箱の中に放り込まれていたため、よれよれになっているが、「オーディオ・ケーブルに関する大きなことを発見した記念品」であり、私のお宝の一つである。


初期の頃の末端処理法
8Xに付属のスピーカー・ケーブルの構造は、写真2や写真3の被覆を透かして、その概観が何となく判別できる。
細線が撚り合わされた撚線が10組ほど、さらに撚り合わされた構造になっている。
そのため、もしその末端がバラけると、極細線のハケのようになり、始末に終えなくなると思われる。
私は最初、このケーブルの先端の5mmほどを、ハンダでしっかり濡らして(ハンダが細線の内部に満遍なく浸み込むようにハンダ付けして)、そのままの状態で使っていた(図1)。
図1の模式図のような状況で、スピーカーや、メインアンプと接続されると考えればよい。


*初期の末端処理.jpg


<図1:最初の頃に行っていた末端処理の模式図>
**最初、8Xに付属のスピーカー・ケーブルを、図のように先端だけをハンダ付けした状態で使っていた。しかし、どうも思わしい結果が出なかった**






初期の末端処理にも理はある
8Xに付属されていたスピーカー・ケーブル(細線の撚り線)の末端を、最初は図1のように処理して使っていた。
この処理法は、誰に教わるでもなく、昔からやっていた。
この処理法には、自分なりに解釈した理屈もある。
図1のように、末端を、しっかりとハンダが浸み込むようにハンダ付けすることにより、すべての細線が、ケーブル内各部の状態がどうであれ、両方の末端で短絡・接続されることになる。
極端に言えば、1本の細線が信号と導通すれば、ケーブルの導体のすべてに信号が流れることになる。
この末端のハンダ付けをしない場合、図1のように、線材を端子で挟み込んだだけでは、何百本かの細線のすべてが導通しているかどうかの保障がないのではないだろうか。
おそらく、いくらかは導通しておらず、またいくらかは抵抗を持って導通している可能性があるのではないか、と思う。
その懸念が、図1のように、末端の数mmにハンダを十分浸み込ませることにより払拭されると考えている。

しかし、このような末端処理をして、ハンダのない部分を端子に挟み込む方法では、なぜか、いい結果が出なかった。
そこでこのことをSTAXに相談した話が、先の「相談はしてみるもの」の段である。

(ちなみに、ハンダ付けした部分を、接続端子で挟み込んで圧着してはいけない。ハンダには弾力性がまったくないし、強い力が加われば、ハンダ付け部分のハンダが割れてしまう。ハンダ付けされた部分の挟み込みは厳禁である)


末端処理後の生気を帯びた音に驚く
その音が出た瞬間、

スピーカー・ケーブルは線材よりまず末端処理

の一言に尽きる、と思った。
8Xから出てくる音が、嘘のように生気を帯びた。
音が生きている。
スピーカーを介さずに直接耳に響いてくるようなリアル感のある音。
スピーカーの存在を忘れさせる音。
私がこのブログでよく使う「そこで演ってる感」のある音。
今まで使っていたケーブルなのに、出てくる音は全然別物。
この変化に驚き、線材等を送ってくれたSTAXの営業マン氏に電話をすると、「そうでしょう。変わったでしょう。しばらくそれで様子を見てください」と、例の「あっさり」口調であった。

これ以降、8Xに付属してきたケーブルは、その時に教わった末端処理をしたまま、現在に至るまで、メインシステムのスピーカー・ケーブルとして使っている(今現在は息子の8Xに使っているが)。
そしてこのケーブルが今現在も、私のスピーカー・ケーブルのレファレンス(基準)となっている。


*SPケーブル末端処理法.jpg

<図2:スピーカー・ケーブル末端処理の「決め手」>
**1987年に入手したSTAX ELS-8Xに付属のスピーカー・ケーブルの末端処理を、当時のSTAXの営業マン氏に教えてもらった。その処理による音が大変良好なので、以来、この末端処理法が私の「決め手」となった。現在もすべてのスピーカー・ケーブルに採用している。巻きつける線材については下段参照**





*バナナ端子正面DSC_0330.jpg*バナナ横DSC_0328.jpg
                 <写真4:スピーカー・ケーブル末端処理の例>
**スピーカー・ケーブルの末端を、このように処理してバナナプラグに使用した状態。私は昔に作られたバナナプラグの品質を信頼しており、スピーカーの端子に多用している。**



スピーカー・ケーブルの末端処理はこれでよし!
STAXの営業マン氏に教えられた末端処理の結果に驚き、当時の現用のスピーカー・ケーブルのすべてに、また、それ以降に使ったすべてのスピーカー・ケーブルに、この図2の末端処理を採用している。
巻きつける銅線は、Fケーブルの芯線でもいいし、さらに高純度のものや、無酸素銅系のものでもよい。
肝心な点は、少なくともFケーブル程度以上の柔らかめの、柔軟性がある線材を選ぶことである。
この線材が硬いと、取り回しが自由にならず、使い勝手が悪い。

それらの結果を総合して、私は、スピーカー・ケーブルの末端処理に関しては、「これでよし」、と断定している。
また、その他の末端処理法をいろいろ試みても、これ以上の音質改善は望めないだろうと思っている。
その昔、8Xに付属のスピーカー・ケーブルから学んだ末端処理を、以来20数年間、すべての場合に採用して何の問題も不満もない。
スピーカー・ケーブルの末端処理は、これでよし!


アルミ単線のスピーカー・ケーブル
以下、参考までに、の話である。
過去、高額なケーブルこそ使ったことはないが、一般的なスピーカー・ケーブルは、いろいろな形式のものを使った。
その中で、一般的ではないが面白かったのは、太さが大人の人差し指ほどのアルミの単線や、同じく直径が4mmほどのアルミ単線を使ったことがある。
長さはどちらも4・5mほどあった。
それらアルミニウムの単線ケーブルは、人からの頂きものであり、いずれも手作りであった。
太い方のケーブルは、単線に薄い布製のダブダブのチューブを被せてあり、4mmφのケーブルは、これも太めのビニールチューブが被せてあった。
自分から積極的に入手するようなものではないため、実験試料としては貴重なケーブルである。


電気をよく通す、通さない
アルミは銅よりも電気を通しにくい。
逆にいえば、銅の方がアルミよりも電気をよく通す。
参考までに、電気抵抗率(電気の通しにくさを表す値)の低い順のベスト4を挙げてみる。
つまり、電気をよく通す順である。


電気抵抗率(単位はオームメートル:Ω・m)(温度による影響を無視している)
1位) 銀 1.59 × 10の-8乗
2位) 銅 1.68 × 10の-8乗
3位) 金 2.21 × 10の-8乗
4位) アルミニウム 2.65 × 10の-8乗


電気をよく通す順は、1位が「銀」で、「アルミ」は4位である。
さて、電気の伝導に関して、このように銅より劣るアルミのケーブルの音は、いったいどうであったか。
電気抵抗率の値から、アルミが劣るといっても、線材の断面積しだいである。
銅線の2倍の断面積のあるアルミ線は、銅線よりも電気をよく通す。
線材の電気抵抗は、線材の材料よりも、さらには意味不明のクライオ処理などよりも、線材の断面積(つまり太さ)により、簡単に数倍以上の差が出る。
また、温度による抵抗値の変化も、思ったより大きい。
銅線の場合、銅の純度競争や、クライオ処理などの影響は、こと「抵抗値」に関して、温度による変化の前に、ほとんど意味を持たないほど小さい。
このことは、十分に頭に入れておく必要がある。


*アルミ単線DSC_0354.jpg


<写真5:4mmφのアルミ単線ケーブル>
**手作りのスピーカー・ケーブルであり、ビニールチューブをかぶせてある**






アルミ・ケーブルの音
このアルミ単線のスピーカー・ケーブルは、私のオーディオ・システムに使った場合、とても「アルミらしい」音であった。
太い方のケーブルは人にあげてしまったので手許にはないが、先日、4mmφのケーブル(写真5)を探し出して再度聴いてみた。
やはり昔聴いた印象どおり、「軽いアルミの音」であった。
この表現は半分ジョークではあるが、アルミの材質の感触をそのまま表すような、「軽々しい」雰囲気の音であった。
偶然の一致とはいえ、まさにアルミの音、と言っていい。
材質の感触と、音の質とが、偶然とはいえ同じ感じであったのは興味深い。

太いアルミ線の音は?
詳しくは覚えてないが、人にあげてしまったことから、私のシステムにおいては満足のいく音ではなかったのだろう。
その上、人差し指の太さのアルミ単線など、取り扱いがどうしようもない。
家庭のオーディオ用ケーブルは、スピーカー・ケーブルであれ、電源ケーブルであれ、各種のライン・ケーブルであれ、柔軟でなければならない。
柔軟性に欠けるケーブルなど、音がどうであれ、父は使わない。
と、まあ今回は、末端処理とともに、こんなこともケーブル選びの基本の一つ、と覚えておけばいいだろう。


ケーブル選択の基本
また、各種のケーブルそのものの選択は、何度も言っているように、日本の一流ケーブル・メーカーの、ごく一般的な標準品を使っておけば、それで過不足なしであり、それでよし、である。
それらのケーブルを使って、良好な音が出ないようなオーディオ・システムは、どこかに欠陥がある。
ケーブルをあれこれ気にする前に、まずその点を追求すべきだろう。


(口伝(4)スピーカー・ケーブルは線材よりまず末端処理 ~これでよし! 実用的末端処理~)


コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

コメント 2

山本健児

流体力学の圧力損失と流量の関係から考えても、断面積の激減するケーブルの末端はボトルネックであろう危惧していました。これは確実で安価でよい方法だと納得できました。ありがとうございました。
by 山本健児 (2016-04-23 09:06) 

aspyaji

始めまして
スピーカーケーブルの端子処理を考えていたらこちらのブログにたどりつきました。早速やってみたところ、音が驚くほど引き締まり驚きました。これは効果ありです。参考にさせていただきありがとうございました。
by aspyaji (2017-07-25 11:37) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。