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いとし子(5)EMT927の原型を作ったLyrecのテレコが好き [オーディオのいとし子たち]

今回の日記の「いとし子」は、メインシステムと常時つながっている「オンライン待遇」なので、分類を「オーディオルームのコンポーネントたち(2)」にしていたのですが、あまりに可愛いマシンなので「いとし子(5)」に入れてしまいました。
私、オーディオ機器の「回りもの・メカもの」の中で、テープレコーダーが一番、ダントツに好きです。



「1/fのゆらぎ」にヒーリング効果があるとか、ないとか。
そんな「ゆらぎ」、これにあってはならない。
極めて安定した定速走行こそ、アナログ・テープレコーダーの命である。

10吋(インチ)のリールがゆっくり回る。
1/4吋(6.35mm)幅のテープが、走行系の七曲がり(ななまがり)のカーブをスムーズに通過していく。
サプライリールからテイクアップリールへ、静かに、滑らかにテープが流れる。
そしてその流れから、とても整った、とてもバランスのよい音が再生される。

アナログのテープレコーダー。
よくできた器の、その録音・再生の音響クオリティーは、人の耳にとてもよく馴染み、アナログの頂点を極めたような「凄さ」がある。

(写真はすべて拡大できます)
斜め上(縮小ト済)DSC_7595.jpg
<写真1:Lyrec社のプロ用可搬テープレコーダーFRIDA>
**すっきりと整理されたデザイン。テープ走行系は非常にシンプルであるが、走行安定性は抜群。写真が下手で、ビュンビュン回っているように写っていますが、ゆっくりです。左前の付着物はゴミではなく、テープ末端を留めてあった接着テープです・・**




テープレコーダ事始
人の一生において、その後の生き様に大きな影響を与えることになる有形・無形のものとの出会いがいくつかある(と思う)。
私にとってその一つが、高校の放送室にあった最新最高級のテープレコーダーTC-777であった。
SONYの「スリーセブン」、TC-777。
その仕様、つまり、作りや性能は、ほとんどプロフェッショナル・ユースである。

私はこのスリーセブンで、「本物(プロ仕様)」と「普及品」の違いを体感した。
マイクロSWを使ったフェザータッチの操作性、俊敏な反応と動き、アルミ・ダイキャストの堅牢なベースに支えられたメカが発する「信頼の動作音」、ボリュームの感触、VU計の動き、それらを統合した美しい現代的デザイン。
当ブログ内のどこかで、「第一級品のみが発する「質感」のオーラを感じる」などとおふざけ表現をしているが、まさにその感覚の種は、この777が起源ではないかと思う。

担当の先生は、この777をけっこう自由に使わせてくれた。
家にあった家庭用テープレコーダーの傑作機、オール・アイドラ・メカのSONY TC-101で、AMラジオをエアチェックしたポピュラー音楽のテープを、構内の催し物などでガンガン鳴らした。
しょっちゅう、内臓パワーアンプのプロテクターが動作して止まったことを覚えている。

このTC-777。
学校の放送室に「なにも語らず、ただ在っただけ」であるが、この少年(だか青年だか)に、高校教育では教えることができない「教育」をしてくれたのではないかと思っている。
このTC-777に熟達するほど使わせてもらった経験は、その後の私が歩む道に、とても大きな影響があったと思っている。

WS00427(ト済).jpg

<SONY TC-777:その後に発売された同社の数多くの一般市販の機種を含めて、これほどプロ仕様に近い作りのものはない。4トラック・ステレオモデルの最終バージョンまで、数モデルがあった>
写真は「SONY make.belleve」サイトより




デンマークLyrec社
この会社、欧州では知らない業界関係者はいないほど有名な老舗のプロ用オーディオ機器メーカーである。
1945年あたりから、徐々にレコードのカッティングレーサー(カッティングヘッドを含めたカッティングシステム)などを手がけ、カッティングした盤を試聴する検聴用プレーヤー、各種の磁気テープレコーダー、高速デュプリケーター、そしてデジタル音響機器へと、今に続く音響メーカーである。

メーカーロゴのアップ02(縮小)DSC_7626.jpg




<写真2:本機左手前にあるLyrec社のロゴ>
**DENMARK製。テープを上に押し上げている「ただの棒」のテンションアームが実は「ただの棒」ではない**








EMT927の原型
Lyrec社の検聴用プレーヤーは、日本のターンテーブル愛好家の垂涎の的とされているEMT927の原型といわれている。
内外のサイトで、その図体の大きな検聴用プレーヤーや、その謂れを見ることができるが、Ortofon社とも絡んで製作したらしい。

そのような有力オーディオ機器メーカーであるのに、どういうわけか、日本の業界にはほとんど入っていない。
日本への進出に興味がなかったのか、失敗したのかは分からない。
毎年、幕張で開かれるInterBEE(放送機器展)に、2000年前後のある年(年不明)、Lyrec社のブースがあったらしい。
そのブースで今日の日記の「いとし子」、Lyrec FRIDAが展示されデモを行っていたという。
私も現役時代に、InterBEEは毎年欠かさず見学してきたが、まったく気付かなかった。
これほど美しく魅力的なマシンに気付かないとは、要するにロクに見ていないという証拠だろう。

Lyrec社のテープレコーダー「FRIDA」
まず格好がすばらしい(私の美的感覚では)。
1989年に発売された放送局用の多目的スタジオテープレコーダーであり、「標準ポータブルテープレコーダー」とも銘打っている。
操作性が抜群によく、かつ、どのような操作を行っても、テープへの負担が非常に少ない(つまり安心してテープの取り扱いができる)。
「テープにやさしい」とはいえプロ用である。
民生機のような「かったるい」動きのスピードでは、緊迫の現場では使えない。
早送りも巻き戻しも、恐ろしいスピードになる。
リールが風を切る「シャー」という叫びが恐怖を呼ぶ。
そこでいきなりストップボタンを押しても、このFRIDA、やはりテープにやさしい適度な助走でソフトランディングする。
その急ブレーキ時に、左右のリールモーターが発する電磁ブレーキの「ピューウ」という音が小気味よい(かなりマニアックですが、そうなんです)。
この「テープにやさしい」は、本機の全メカを統括する強力なサーボ機構が実現している。

強力なリールサーボとキャプスタンサーボ
我が家のオーディオ部屋には、局用のOTARI BX-55の右脇に、DENON DN-3602RGがある(「オーディオルームのコンポーネントたち(1)」の写真にかろうじて見える)。
このDENONのテープレコーダーには、小型洗濯機の主モーターほどの大きなキャプスタンモーターが付いている。
(このDN-3602RGの「メカ部」については、いつか日記に綴らねばならない。質実剛健そのものであり、100年酷使してもビクともしないメカはこうあるべき、あくまでも滑らかなテープ走行を極めるにはこうするべき、を物量投入でやってしまった凄い作りである)
そのキャプスタンのDDモーターには、巨大なイナーシャが与えられているが、コンソール型だから「それ」ができる。
しかしFRIDAは小型のポータブルタイプであり、「コンパクトかつ軽量」が要求される。
そこで巨大イナーシャの代わりに登場するのが「サーボ」技術である。
FRIDAのメカの信頼感と、その操作のスムーズな小気味よさは、サーボ技術の成果であり、その威力である。

リール台取外全景(縮小ト済)DSCN1023.jpg

<写真3:リールサーボのためのリール台裏の回転速度検出用パターン>
**リール台を取り外すと、台の裏側にリール台回転速度検出用のパターンが印刷されている。リール台の下の一番奥の穴から出る光素子の光がリール台の裏で反射し、同じ穴の下にある光検出器で、単位時間あたりの光の強弱をカウントして回転速度を算出する。右側リールも同じ構造**




テンションアーム(縮小)DSCN1000.jpg
<写真4:右側のテープ・テンションアームの位置検出装置と、テープローラーのタコメーター>
**テープ・テンションアームと一体で動く細長い「くさび状の穴」を通過する光の増減を検出し、テンションアームの位置を算出する。左側も同じ構造。
テープローラーのテープ接触面の速度は、テープの走行速度に等しい。直結した穴あき円盤の穴を通過する光のパルスをカウントし、テープの走行速度を算出する。同じ構造のタコメーターが左のテープローラーにもある**



キャプスタン裏(縮小)DSCN1010.jpg



<写真5:キャプスタンのサーボ機構>
**左の小プーリーがモーター。右の大プーリーがキャプスタンである。透明なベルトで駆動される。どちらもこの程度の大きさなので、フライホイール効果(イナーシャ)は大きくない。キャプスタン側にスリットを刻んだ円盤があり、このスリットを通過する光のパルスをカウントして回転速度を算出する。写真の上部にその光源と光検出器の素子が見える**






左右のリール台の回転、左右のテープ・テンションアームの位置、左右のテープローラーによるテープ走行速度、そしてキャプスタン・プーリーの回転速度。
時々刻々と変化するこれらの状態を数値的に把握し、キャプスタンモーターやリールモーターの回転やトルクを制御する。
これらのサーボシステムが賢いのは、それぞれの部分が独立して制御されるのではなく、互いに関連し合って統合的にサーボ制御が行われていることである。
たとえばテープローラーのタコメーターは、テープカウンター(テープの走行時間計)の表示用だけではなく、テープ走行の基本的な制御にも、リールモーターの制御にも深く関連している。


裏全景(縮小ト済)DSCN1011.jpg

<写真6:本機の裏側の内部>
**薄いパンケーキのようなリールモーター(日本製。YASKAWA ELECTRIC)と、重ね合わせた「棚田」のようなプリント基板が印象的。プロ用機の機能と性能を、このスペースにうまく詰め込んだ**





細い蓋閉開(組).jpg



<写真7:各テープスピードのEQの調整等、保守時の各種調整は、すべてこの「隠しスペース」で行える>
**下側の写真では左のテープローラーのタコメーターと、テンションアームのくさび状の穴が見えている**









Lyrec&REVOXDSC_7638.jpg




<写真8:本機の置き台は、手抜き作業で急ごしらえした(急に思いついたので)。>
**下のREVOX A700は4トラック。実はその裏にも同じくB77MKⅡの2トラックが収まっている。私のオリジナル・アイデアラックです。前後を分ける中央部にも補強の板を立てたので、強度は十分、グラグラはしない(程度です)**







正面(縮小)DSC_7661.jpg<写真9:「マスター巻き」>
**2トラックテープなどは、ひっくり返して逆方向にも使う、ということはない。この写真のように、再生が終わったテープは、右側のテイクアップリールに「きれいに」巻き取られている。テープは最後まで再生し、きれいに巻き取られたテープを、そのままの状態で箱に収めて保管する。これが「マスター巻き」です。次に再生する時には、右側のリール台にセットし、巻き戻してからスタートします。大切なテープの保管には、このやり方でどうぞ**



10吋(インチ)のリールがゆっくり回る。
’60年代、懐かしい青春時代のOldiesが、毎秒3.75吋(9.5cm)のテープから甦る。
15吋(38cm)では落ち着かない。
7.5吋(19cm)は「普通」すぎてつまらない。
ノーマルテープが巻かれた10吋リールの録音時間は、3.75インチ(9.5cm)ではたっぷり2時間+おまけの数分。
多少ハイは落ちるが、そのほかのクオリティーはしっかり。
そこがいい。

あの頃のOldiesがまだ鳴っているのか・・。
正確なテンポでゆっくり回るリールが安らぎを与え、やさしい睡魔があの時代の夢に誘(いざな)う。
こんな贅沢な午睡の時間が授かれば、それがオーディオの至福の時間というものだろう。


(いとし子(5)EMT927の原型を作ったLyrecのテレコが好き おわり)

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tfbb2009

AudioSpatial 様
年賀状、有り難う御座いました。
その中で、貴兄blogの紹介が御座いましたので早速、訪問させていただいた次第です。
相変わらず、アカデミック・とことんやっておりますね!感心いたしました。小生は、まだ何とか現役技術者として生き残っております。ここ数年、引退してから趣味のオーディオに専念?しようと考えておりましたが、耳鳴りがするようになり、もう待てない!と言う訳で、ピュア オーディオへの回帰を始めています。まずは、オープンリールから始めRevox B77 4トラック機でミュージックテープを聴くところから始めました。当然、サービスマニュアルはダウンロードし、補修基板類はe-bayです。国内では、故障機器のヤフーオークションへの出品はありますが、基板などはほとんどありません。現在は、Revox A700をバラバラ状態にしてオーバーホール中です。などなど、元音声マンとしてはやることが多い状態です。また、携帯の方に連絡させていただきます。
これからも、貴兄のBlog愉しみに致しております。
by tfbb2009 (2014-01-03 23:49) 

AudioSpatial

tfbb2009様
ご訪問ありがとうございます。
A700がバラバラ状態ですか。私も散々やりましたが、REVOXは保守のことをよく考えて設計されているのでありがたいです。
私の夢の究極テレコは、DENON DN-3602RGに、REVOX(or TUDER)の4トラック再生ヘッドとアンプ系を追加したものです(笑)。ヘッドベースには、そのスペースが全然ないのですが・・・。最強のメカに最良の音響。これ、やってみたいですね。
今後ともよろしくお願いいたします。
by AudioSpatial (2014-01-04 23:03) 

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