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最終アンプ(4)全回路図と801Aシングルアンプ [原器を目指した「最終アンプ」]

私の「最終アンプ」が実現したのは、円通寺坂の製作工房があってこそであり、またそれ以前の話として、この工房とめぐり合う縁があってこそだと思っています。
あるきっかけで「縁」が生じ、その縁が「種」を作りました。
「最終アンプ」はその「種」が成長したものです。

今日の日記は、「縁」と「種」の種明かしをしたいと思います。
そして、その「種」から生まれた「最終アンプ」。
その全回路図を「開示」します。
「開示」などと勿体ぶって言っていますが、ご覧のとおり、管球アンプ愛好家諸兄にとっては、「見てもしょうがない、当たり前の基本回路」ではないかと思います。
本当に申し訳ないほど「なんにも無い」回路です。
「どれ一つを外しても、増幅回路が成り立たないほど簡素化・・」の基本方針を証明するような回路ですが、ためしにちょっと眺めてみてください。

この「なんにもない」回路。
でもその結果は、メインアンプに関するかぎり、どこで何を見ても、何を聞いても20年。
周辺機器は替わっても、ブレず、よろめかず、浮気せず。
「その20年」が、本機の「音」を物語っている、と自分一人で思っています。



「縁」~円通寺坂の製作工房との出会い~
工房については「最終アンプ(1)」の日記に綴ったが、工房との出会いの「縁」は、本機誕生(1992年暮れ)の数年前に遡る。
それは、ふと目にとまったMJ誌の広告であった。
工房の広告ではない。
「真空管アンプシャーシーの限定製作」をメインとした「ミューズ工芸」という会社の広告。
その小さなモノクロ写真に目が釘付けになった。

ミューズ広告(正立jpeg縮ト).jpg
<写真1:円通寺坂工房と出会うきっかけとなった「MJ無線と実験」誌に載っていたミューズ工芸の広告の一部>
**ご注意:この広告は20数年前のものであり、現在の諸状況は何も分かりません。この写真は、たまたま手元にあった1990年2月号に掲載されていたもの(「縁」のものと写真は同じ)**


とても優美でコンパクトな形のシャーシーに、その製作例として、たぶんSiemens社の出力管Ed(孤高の銘球)と、整流管Z2c(あたりか)が挿し込まれている。
優美なシャーシーの上に、飛び切り美しいSiemensのドーム球。
私はこの小さなモノクロ写真の一撃で、ほとんど即死状態に陥った。

即刻、電話を入れた。
若そうな声の社長さんが出られて、そのシャーシーは、円通寺坂の工房に置かせてもらっている、とのこと。
私の住所から、ゲットする最短コースは、工房に直接取りに行くのがベスト、といった話であった。
工房の電話番号を聞き、その数日後、私は初めて円通寺坂の工房を訪れたのであった。

小さなモノクロの広告写真。
この写真があの時、私の琴線に触れなかったら、また、円通寺坂工房ではなく他で購入していたら、「最終アンプ」が作られることはまずなかった、と断言できそうに思う。

801Aアンプ全景DSC_7771(トT縮).jpg

<写真2:円通寺坂の工房で購入したミューズ工芸のシャーシーに組んだ801Aシングルアンプ>
**シャーシーの前側面を横に走る「合わせ目」のラインがいい。また電源SWの左のライン上にある赤のLEDがさらにいい!。このアンプ、私のだいじな「いとし子」です**





「種」~「最終アンプ」の芽生え~
この写真の801Aシングルアンプは、シャーシーを受け取りに工房を訪れた際に提案された回路で組んだ。
第1話に登場する工房のKさんと(その時が初対面であるが)いろいろ話をする中で、「こんなものを組めばいいんじゃないか」と勧められ、その場で決めた。
その時、その場でKさんがチャッチャとフリーハンドで描いてくれた回路図は、今も大事にファイルしてある。
この写真では、初段がRCA56916SL7と同等管)のSRPP、CR結合を介して出力はRCAの801、整流管はRCAの83が使われている。

801AアップDSC_7785(ト).jpg



<写真2:増幅管のクローズアップ>
**801には「A」が付いてない。タイトベースに丸印RCAのロゴと、Radiotronの焼きこみ。初期の時代の801である。この801のプレートは板ではなくカーボングラファイト。これ、工房の倉庫部屋に転がっていたので、ついでに買ってきた思い出の球。RCA5691は、わりあい最近製造のもの**






写真1の801Aシングルアンプは、「最終アンプ」を発想する「素」になった特別な存在である。
「最終アンプ」の増幅部は、基本的な考え方として、この801Aシングルアンプで、出力管211/VT-4Cをドライブするという形を取っている。
このアンプで、801A10などといった、素性も特性も、まさに「211ジュニア」といえる「10系」古典傑作球を、散々いじり回した。
その経験から、とても貴重な知識とノウハウを学ぶことができたと思っている。

さて、「最終アンプ」が生まれるためには「縁」があって、「種」もあったという「種明かし」をした。
「最終アンプ」の最も初期段階の発想は、「つまりは写真2の801Aアンプの出力で、211をドライブすればいいじゃないか」程度のものであったと思う。
この単純な発想が、時々工房を訪れて、そこにある製作中のものを見て、またいろいろな話を聞くうちに、段々と膨らんでいった。

円通寺坂工房への感謝
写真2のアンプ程度であれば、自分でもけっこう上手に作ることができる、と思っている。
しかし「最終アンプ」は、自分で作るのはまったく無理である。
プロ用・工業用機器の製作マインドと、ノウハウおよび経験がなければ作ることはできない。
似たものは出来ても、本物は作れない。
私が幸運であったのは、当時その工房内で、本機の構想と似たようなパワーアンプを開発する計画があったことである。
そのための試作機の意味を含めて、私の厄介な妄想の実現を引き受けることになったのだと思う。
実費に近い額しか請求されなかったし、そもそも、こんなものを真に受けてくれる工房など他にないだろう。
茶飲み話から教わったこともたくさんあり、円通寺坂の工房には、本当に感謝している。


「最終アンプ」全回路図
手書きの回路図であり、一部不鮮明な部分もあるが、本機はおおよそ、このような回路である。
増幅部の構成は、全段トランス結合、セルフバイアス方式による基本中の基本、教科書どおりである。
電源部の構成も、水銀蒸気整流管を使用する場合の、チョークインプト方式の基本中の基本、これも教科書どおりの優等生である。

全景トランス名付02.jpg



<写真3:「最終アンプ」実機の全体構成>
**「T」はトランス、「CT」はチョークトランスのこと**








211アンプ増幅部回路図(縮ト).jpg

<図面:1信号増幅部の全回路図>





211アンプ電源部回路図(縮ト).jpg




<図面2:電源部の全回路図>







回路構成の基本的考え方
ハイエンドオーディオ(音が最上の意味)の真空管増幅器の基本設計において、もっとも重要なのは、各部・各段・各ブロックごとに「自己完結(独立化)」させることであると信じている。
つまり、ある部分の擾乱(オーディオ信号以外の予想しない様々な変動や雑音)が、前段や後段、もちろん他の部分にも影響を与えない回路構成とすることである。
その最も典型的な例としては、アンプ本体を「ステレオ構成」にせず、左右のチャンネルを完全に独立させた「モノラル構成」とすることを考えればよい。
またステレオ構成にした場合は、左右の電源部を、電源トランスを含めて独立させたり、筐体を金属で区分けしたりすることも、よく行われている。
そういったアイソレートの考え方を、増幅回路そのものにも当てはめたものである。

この考え方と対極にある直流増幅方式などは、理想ではあっても、そう簡単に回路図どおりの動きをするはずはない、と思っている。
あちこちの部分で、擾乱は多かれ少なかれ発生しており、それが後段にはもちろん、逆方向の前段の方向にも悪影響を及ぼす、と私は考える。

そのように自分勝手に考えるとして、この「独立化」は、真空管増幅器でなければ実現できない。
半導体では現実問題として、そんなことを言っていては回路設計ができない。
半導体の場合は、「各部のアイソレート」などとはまったく別のアプローチがあると思う。

回路各部の「独立化」。
そして回路の動作の必要上、欠くべからざるもの以外、徹底的に省く簡素化。
ただし安全・保安上に必要なものは、音質に多少影響がありそうでも略さない(電源トランスの中点に赤で追加した抵抗などが一例)。


さて、こういった考え方が本機の回路設計全体を貫く大基本であり、その最終結果として図面1、2の回路図に到達しました。
やむを得ず妥協した部分もあります。
そういった観点から回路図を「読んで」いただければ幸いです。
さらに、回路各部の「ここはなぜこうしたのか?」などの?に対して、説明を加えたい箇所もいくつかありますが、それは後日の日記に綴ります。
また、妥協した箇所や、工房とのやりとりなども、記(しる)そうと思っています。



起承転結
20年を経た本機の誕生を振り返ってみて、それには、はっきりとした「起承転結」があったことに気付きました。
そもそも人の存在がそうである、と言われているように、本機も「奇跡の存在」ですよ、と写真1が語っているように感じています。


(最終アンプ(4)全回路図と801Aシングルアンプ おわり)
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コメント 3

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佇まいが美しいアンプですね。
ケースの厚さ、アール、そして水平なラインが絶妙です。出力管の方の丸みとボリューム、光が、何ともいえません。
デザインな印象だけですいません
by お名前(必須) (2013-11-28 12:23) 

AudioSpatial

コメント、どうもありがとうございます。
このシャーシーの造形美を分かっていただけてうれしいです。このデザインのポイントは、やはり前側面を横に走る「合わせ目」の黒ラインにあるのでしょうか。
20年前の話ですが、実はここの社長さんと、円通寺坂工房で一度、居合わせたことがあります。その時、マイナーチェンジした第2弾を準備していると言っておられたので、それも発売されたものと思います。デザインは社長がやっているとのことでした。
「音」は、この清々しい格好に合わせたかのような、とても繊細で美しい高音と、しっとりして明るい中低音が魅力です。
どうもありがとうございました。
by AudioSpatial (2013-11-28 19:37) 

yoshi

うちのは2ウェイマルチで、上は801Aシングルで1インチホーンを鳴らしています。約30年弱使っています。その間、いろんなところでいろんな音を聞きましたが、高音部の801Aシングルに関しては、上回るものが全くなかったため、グレードアップできません。買い替える楽しみがないのが困ったもんです。
by yoshi (2017-06-27 09:23) 

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