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コンポ(3の2)MAGNEPAN平面スピーカーの音がSTAX ELS-8Xを救った [オーディオルームのコンポーネントたち]


昨年の春、私の所へMAGNEPAN MG1.7が送られてきた。
「かえるの息子」が入手したものである。
自分のアパートの部屋に置くスペースがないといって、配送先を実家にしたという。

MAGNEPAN(マグネパン)
平面フィルムを振動膜(ダイアフラム)にした平面型スピーカーである。
ただし私のSTAX ELS-8Xのような、平面フィルムをクーロン力で駆動するコンデンサースピーカー(静電型スピーカー)ではない。
誰もが知っている丸い形のダイナミック型コーンスピーカーの駆動原理と同じ、磁力(フレミング左手の法則)を利用した方式である。
それゆえMAGNEPANの駆動方式は「Magneplanar:マグネプレーナー」と名付けられている(漢字では「磁力平面型」とでも書くのか)。
なお「コンデンサースピーカー」は、日本でのみ通用する呼称であり、海外では「ESL:ElectroStatic Loudspeaker」である。
やはり日本でも、静電気の力(クーロン力)で駆動する方式「静電型スピーカー」と呼ぶべきだろう。


*MG1.7_DSC_9585.jpg*SMGa_DSC_9575.jpg
<写真1:左の写真の黒がMAGNEPAN MG1.7。右の写真の白が同SMGa。最後部はSTAX ELS-8X>
**MG1.7の発売は2010年、SMGaは1986年である。SMGaの後継機(現行機)はMMGであり、ツイーター部がQuasi Ribbon(クワジーリボン)型(図2)に改良さているらしい**


私はMAGNEPANの小型モデルSMGaを、20数年前から書斎で使っていた。
当時はまだオーディオ部屋がなく、STAXの大型コンデンサースピーカー ELS-8Xなどのメインのオーディオシステムは、居間兼台所に置いてあった。
そこで、オーディオのサブシステムが書斎にも必要であり、SMGaとYAMAHAの小型密閉箱2WayスピーカーNS-1(前回の写真2)の2種類を気分次第で鳴らしていた。


1969年MAGNEPAN社創立
MAGNEPANの創立は割合古く1969年であり、本社および工場は、米ミネソタ州ホワイトベアレークにある。
MAGNEPAN社創業の逸話が、同社のホームページに載っている。
創業者Jim Wineyは、静電型スピーカー(コンデンサースピーカー)の最初期のユーザーであり、その音に感銘を受けたのか、自ら、さらに改良した静電型スピーカーを開発しようと研究を始めた。
ところがその過程において、MAGNEPANスピーカーの発音の仕組みであるMagneplanar方式(図1)を発明し、ついにはMAGNEPAN社を立ち上げてしまった、という話である。


並外れたSPを手中にした者の常、起業
その逸話は十分にあり得る話である。
昨年の春、私が発音ユニットが劣化して鳴らなくなったSTAX ELS-8Xの修復に没頭しているとき、1969年のJim Wineyと同じような気持ちになった。
ELS-8Xの構造の全容を解明し、修復の手順も確立して、実際の修復作業が順調に進むようになったとき、「このノウハウを元手に、さらに研究すれば、8Xを凌ぐESLスピーカーを製作することができるのではないか」。
「起業して、そのスピーカーを世に広めたい」。
などと妄想に駆られたものである。
スピーカーについて言えば、別に静電型スピーカーに限らず、何か特別に優れたスピーカーを手中にした者は、それ以上のものを作って世に出したい、と思う気持ちが湧いてくるに違いない。
それが高じれば会社を興すことになり、世の常として、その多くは失敗に終わる。
古今東西、一般市場の流通商品として、本当に良いものが生き残るとは限らない。
MAGNEPANの、もうすぐ半世紀にもなる歴史を通して、絶えることのないユーザーの支持を得てきたことには、その音響の素晴らしさとともに、製品そのものが「家電」としての諸々の条件を満たしているからだろう。


*DSC_9673.jpg*DSC_9648.jpg
           <写真2:MAGNEPANの横からview>
**左の写真はMG1.7。右の写真は左からSMGa、MG1.7、STAX ELS-8X。このように平面型スピーカーはいずれも占有床面積が小さい。実際に使ってみると、この特長は大変ありがたい**


SMGa2段スタックの夢、挫折
さて、20数年前から愛用しているMAGNEPANの小型モデルSMGa。
実はその後、もう1式のSMGaを入手して隠匿していた。
縦に2段のスタックにする計画であった。
その構造や外枠の材料の選定など、十分に練り上げてあったが、事を具体的に進める段になり、実物の寸法をとってみて、もう笑うしかなかった。
書斎のスピーカー設置位置の天井につかえる!
設置位置付近の天井は、屋根裏の関係で少々低くなっており、2段スタックが入らない。
感覚的に十分イケル、と思っていたのが大間違いであった。
そのショックから立ち直ることができず、2段スタック計画は頓挫してそれっきりになってしまった。


息子にお下がりSMGa
それっきりお蔵入りになっていたSMGaが日の目を見ることになった。
かえるの息子がオーディオに興味を持ち始めたことが幸いした。
お古のレコードプレーヤーやCDプレーヤーなどとともに、使っている方のSMGaを「お下がり」した。
そして私がお蔵入りしていたSMGaを使った。
彼はしばらくの間SMGaを聴いていたが、その後、親父と同じALTECのMODEL 19を入手した(当ブログの口伝(1)に関連記事あり)。
MODEL 19は第1級のスピーカーである。
彼もそのことは分かり、特にSMGaに不足の低域の豊かさに、一応の満足はしていた。
しかしひとたび平面型スピーカーの「自然な音」や「目に見えるような定位と音場の広がり感」を経験した耳には、1級品といえど、箱型スピーカーの「鈍さ」が耳につくのだろう。
その後、彼がgetしたのがMAGNEPAN MG1.7であり、これが冒頭の「我が家に送り付けられた」MAGNEPANである。
要するに彼が求めている「音」は、「豊かな低音が出るSMGa風の音」なのだろう。
しかし一回り大きなMG1.7でも、まだその望みが叶ったわけではなかった。


MG1.7の「リアル感」に私の何かが弾けた
我が家に送られてきたMG1.7には、もちろん私も興味があり、さっそくオーディオ部屋に運んで鳴らしてみた。
それはちょうど1年ほど前の出来事である。
私のオーディオ部屋で鳴らしたMG1.7の音が、その瞬間から始まる「あまりにも幸運なドラマ」の幕開けであった。

MG1.7から出てきた音は、紛れもなく「SMGa系」の音であり、SMGaの帯域をさらに低く、さらに高く広げ、よりしなやかになった感じであった。
いろいろなジャンルのCDを一通り聴き、「たいへん困ったことになった」と思いつつ、私が試聴の際に、最後の決め手のレファレンスとしているボーカルのCDを聴いた。
その声の「リアル感」や、「そこで歌っている感」に、思わずゾクッとすると同時に、何かが弾けた。

物置部屋のSTAX大型コンデンサースピーカー、ELS-8Xを何としても修復せねばならない。

この決断は、修復が可能かどうかの問題ではなく、「甦らせなければならない」であり絶対的なmust!であった。
そのMG1.7の音の感覚こそ、私が求めている音であった。
この音のさらに先にある音をSTAX ELS-8Xなら出せる。
発音ユニットを不注意で劣化させ、もう10年近くも8Xの音を聴いていなかったが、8Xならその先の音を出せる確信があった。
8Xの代替機として聴いているALTEC MODEL 19。
これはこれで十分「よし」であるが、その良さが存在する「位置」とか「場所」とかが、MAGNEPANやSTAX ELS-8Xとは何か違う。
MODEL 19は、これらの平面型スピーカーと共存はできるが、代替機としてそのまま納まっていることはできない。


MG1.7の音→8Xの修復成功→そして奇跡が
いくら¥を積んでもSTAX ELS-8Xの修復は不可能であり、それでも一縷(いちる)の望みをつないで狭い納戸に押し込めて10年近くが経っていた。
MG1.7の音を聴いたあとの8X修復への挑戦については、カテゴリー「甦れSTAX ELS-8Xコンデンサースピーカー」に綴ってあるので、よろしかったらご一読願えれば幸いである。
そこに『あるきっかけで、私の心の中の「緊急決起ボタン」が押された』とあるのは、ここのMAGNEPAN MG1.7の音であり、それがボタンを押すトリガーであった。

そして「奇跡」とは、8Xの修復に成功し、さらに修復後の音がオリジナルを凌ぐほどであったことと、その音を聴いた息子が、その後まもなく、「奇跡的」といえるほど完全な状態の8Xを、本当に「奇跡的なタイミング」で入手できたことである。
ALTEC MODEL 19の傑作ウーハーユニット、416-8Bから聴こえる最低域の低音の、さらに低い、耳ではなく体で感じる空気の粗密波の音圧が、8Xから伝わってくる。
かえるの息子は、オーディオの世界に足を踏み入れてほんの数年にして、自分の耳が思い描いていたスピーカーを手に入れてしまったわけである。
私も本人も、まったく思いも寄らなかった嘘のような話であるが、親父と息子はどちらも完動品の「ALTEC MODEL 19」と「STAX ELS-8X」を所有することになった。
残念ながら彼は、ことスピーカーに関するかぎり、今後どのような誘惑があろうと、「目移り」や「浮気」などのスキャンダルを起こすことは、おそらくできないだろう。


MAGNEPANのマグネプレーナー方式の原理と仕組み

MAGNEPANのSMGaを修理する
ちょうど今、私の手元にあるSMGa(後で入手したもの)に不具合があり、その修理を兼ねてMagneplanar方式の仕組みを見ていこうと思う。
たまたま数カ月前、現在私が使っているSMGaの左側 のツイーター部の音が出なくなった。
ツイーターへの過大入力保護用ヒューズが切れたわけではないので、おそらくどこかのハンダづけの部分が剥がれた程度のことだろう、と当たりをつけて分解を始めよう。


*DSC_9770.jpg*DSC_9778.jpg
     <写真3:ツイーターが鳴らないSMGaの正面と背面>


MAGNEPANの小型モデルであったSMGaは、価格も扱い易さもイージーであったせいか、海外ではかなりのヒット作であったのだろう。
SMGaの修理に関しては、ネットで検索すると山のように出てくる。
このことは、SMGaがMAGNEPANのヒット作であるだけでなく、大勢のユーザーに愛されているスピーカーであることを物語っている。
日本でも、そこそこの台数が出ているのだろう。
日本のユーザーの修理記事も散見されるので、参考にしていただきたい。


スピーカーユニットの露出
まずは布製のネットを取り外すための作業からスタート。


*DSC_9789.jpg*DSC_9793.jpg
                <写真4:足、SP端子のパネル、両サイドの木枠を取り外す>
                 **どれも、+ドライバーだけで簡単に取り外せる**


スピーカーユニットを覆っているカバーの材質はリネン(麻)である(間違いないと思う)。
この手の天然麻のネットの丈夫さや経年耐久性は驚異的である。
私のSTAX ELS-8Xの前面を覆っている布も、同じ麻のネットであり、昨年、8Xの修理を行った際に、その麻のネットの優秀性を知った。
ちなみに、スピーカーのネットとしてよく使われる「サラン」は天然繊維ではなく、人造の合成繊維である。


*DSC_9797.jpg*DSC_9817.jpg
                 <写真5:底の部分にネットカバーの開口部がある>


ネットカバーは袋状になっており、開口部は底にあって、ステーブル(ホッチキスの針)で、やけに厳重に止めてある。
しつこく止めてある針を、一つひとつ、いやになるほど抜き終わると(実はその下に、さらにもう一列の針がある)、いよいよ袋状のカバーをたくしあげることができる。
スピーカー最上部の両脇も数個の針で止めてあるので、カバーをスッポリと抜き取るには、そこの針も抜いておく。


スピーカーユニットの裏側の様子
故障の原因究明のため、とりあえず、スピーカー・ネットワークやハンダづけの個所などが露出する程度にネットカバーをたくしあげた。


*DSC_9822.jpg*DSC_9837.jpg
         <写真6:ネットカバーを途中までたくしあげ、テスターで各部の導通をチェックする>


Magneplanar型の心臓部、振動膜を駆動するコイル導体が見える。
導体は写真6のようなパターンに引き回され、振動膜(ダイヤフラム)上に接着剤で貼り付けられている。
接着剤は柔軟性のあるネバつく材質であり、そこに付着したゴミや埃を取り除くことはほとんど不可能である。
この導体に、メインアンプのスピーカー出力信号の電流が流れ、振動膜の下に置かれた棒状の磁石の磁力線により、導体を動かす力が発生する(図1参照)。
写真手前の細い導体がツイーター部、奥側の太い導体がウーハー部であり、ツイーター部は、導体の間隔が狭くなっていることが分かる。
磁石は四角の縦長の棒状であり、この導体の縦方向の本数と同じ数が、振動膜の下に縦に並べられている(残念ながら見えない)。


ツイーターが鳴らない不良個所判明
写真6右側の4つの端子の上側2つに、ツイーターのコイル導体がハンダづけされている。
この両端子の導通をチェックすると、なんと16オームほどの値を示した。
おそらく小さい音では鳴っていたのだろう。
4オーム前後が正常値なので、明らかに異常である。
導体の被覆を剥がして、導体そのものの抵抗値をチェックするとOKである。
結局、一番上の端子のハンダづけが不良であった。
端子のハンダづけ面積は十分広いので、工場でのハンダづけ工程に何らかの問題があったのかもしれない。
その部分が経年劣化により、抵抗値が上がったのだろう。


スピーカーユニットの正面(表側)の様子
スピーカーユニットの表側は、各コイル導体の真下に一列の穴を開けたパネルになっている。
一見、こんな小さな穴から、その裏にある振動膜の音が、十分に透過して出てくるだろうかと不安になる。
しかし長年、このやり方で特に大きな問題はなかったのだろう。
相反する要因や何やら、いろいろあっての計算から、この形になったものとは思うが、どうもこの構造には、直感的に拒否反応が生じる。
素人の考えであるが、穴の径はこの程度でもいいが、もっとずっと高い開口率が欲しいと思うのだが・・。


*DSC_9843.jpg*DSC_9849.jpg
                     <写真7:左が正面、右が背面の様子>
**各列のコイル導体の位置に、一列の穴が開けてある。穴と穴の間に、四角の棒状の磁石が縦に並べて配置されている(図1参照)。右側の写真は、背後の光が透けるように撮影した**



平面型であるが紛れもなくダイナミック型のMAGNEPAN

図1は、MAGNEPANの創業者が発明・考案したMagneplanar型スピーカーの仕組みと、その動作原理図である。
Magneplanar型は、一般のダイナミック型コーンスピーカーと同じ原理である「フレミング左手の法則」による磁力を振動膜の駆動に利用している。
「フレミング左手の法則」とは、磁力線の方向と、その中に置かれた導体に流れる電流の方向により、導体に働く力の方向が定まることを左手で表わすものである。
互いに直交する左手の親指(力)・人差し指(磁力線)・中指(電流)で示すことが出来る。
図1は、Magneplanar型スピーカーの仕組みと動作原理を、分かり易く示すために私が書き下ろした模式図であり、1枚に主要な話を押し込めた。


*SMGa動作原理と仕組みjpeg.jpg



<図1:MAGNEPAN Magneplanar型スピーカーの仕組みと動作原理>







図1の上部は、通常に設置されている状態のSMGaを、正面の真上から見た様子である。
ブルーのバーが長い棒状の磁石であり、図のようなS/Nの磁極になるように並べられている。
図の左下は、背面から見た様子であり、振動膜上を駆動コイルが引き回されている形に注目していただきたい。
その振動膜上の右端はツイーター部分であり、棒磁石や駆動コイルの間隔が狭く、また導体も細くなっている。

そして図の右側は、駆動コイルの導体に、メインアンプのスピーカー出力の電流が流れ、音が出ているときの様子である。
棒磁石の磁極が図のように組み合わされているため、電流の流れが上側の図の場合は上向きの力が、その逆の電流の流れの場合は下側の図のように下向きの力が導体コイルに働く。
導体コイルは振動膜に接着されているため、このスピーカーに入力された音声信号に応じて振動膜が振動し、音として再生されるわけである。
姿・形はダイナミック型コーンスピーカーと大きく違うが、音を放射する振動板を駆動する原理は、このように同じである。(すみません。ダイナミック型コーンスピーカーの動作原理は了解済みとして話を進めています)

SMGaに内臓されている2Wayネットワークは、LとCのみで構成された、もっとも一般的な6db/octのものであり、特に変わったところはない。


MAGNEPAN MG1.7のあらまし
ボーカルのCDを聴いた瞬間、そのあまりのリアル感で私を焦燥感に駆り立て、その場でSTAX ELS-8Xの修復を決意させたMG1.7とは、どのような構成のスピーカーなのか。
それを簡単に紹介しておきたい。
MAGNEPAN MG1.7の構造は、先の段で内部を見たSMGaを一回り大きくし、そのツイーター部の隣に、さらにスーパーツイーターを加えて3Wayにしたものである。
そのスーパーツイーターは、Quasi Ribbon(クワジーリボン)型と称するもので、図2の左側の図の構造である。


*quasi ribbon driver_05.jpg*True Ribbon Tweeter_06.gif
<図2:左・Quasi Ribbon型、右・True Ribbon型、各ツイーターの構造>
        **MAGNEPANのカタログより抜粋**


左図のQuasi Ribbonツイーターの仕組みや原理は、Magneplanar型と類似である。
Magneplanar型との相違点は、振動膜には、より薄くて軽いMylar Diaphramを採用し、導体にはワイヤーよりずっと軽い金属箔のリボンを貼り付けている点である。
一言でいえば、「ダイアフラム系の質量を下げた」ことであり、それにより高域特性が改善されている。

右図のTrue Ribbonツイーターは、「正当的な仕組み」のリボン型である。
このタイプのツイーターは、MAGNEPANの上位の大型スピーカーに採用されている。
Quasi Ribbon型のように、ベースフィルム(ダイアフラム)にリボン箔を貼り付けたものではなく、アルミニウム箔のリボンが、磁界中に単独で張られており、そのリボンそのものが振動して音を出す仕組みである。
ただしその駆動力は、Magneplanarの仕組みと類似である。


*DSC_9639.jpg*DSC_9693.jpg
   <写真8:MG1.7のツイーターとスーパーツイーターの音量を減衰させるためのアッテネーター>
**左の写真の状態は、「減衰なし」のショートバーを装着した状態。右の写真のアッテネータ素子を装着することにより、1~3dbほど減衰が可能。また右端の端子を使って、ユーザー任意の抵抗を装着することも可能**


平面型スピーカーのリアルな音場はどこからくるのか
オーディオの歴史において、平面型スピーカーにはその代表として、STAXのコンデンサースピーカー、MAGNEPANのMagneplanar型スピーカー、apogee(アポジー)のオールリボン型スピーカーなどがある。
それらの平面型スピーカーには共通して、他の方式のスピーカーでは得がたいリアルな音場と、リアルな音を再現する独特の能力があると考えている。
平面バッフルの音も、平面型スピーカーと類似の部分が多いと感じている。
長年の実体験から推して、平面型スピーカーに備わっているこの能力の大きな要因は、

「スピーカーの背後にも、前面と同じ程度の音量の音が出ている」

ことにある、と、私の中ではほぼ結論が出ている。
背面の音は、もちろん逆位相であるが、後ろから出る音の位相がどうのこうのは問題ではない。
発音体から音波が四方八方に広がり、直接波の音とともに、あらゆる方向から、様々な遅延を伴った反射音(当然ながら位相もメチャクチャ)が人の耳に到達する。
一般的にはこの状況が、人が聞く「音」の基本である。
このことを、まず押さえておく必要がある。
音楽会であろうと、森の中のウグイスの鳴き声であろうと、路地で遊ぶ子供の叫び声であろうと、同じである。

動物の耳に備わっている方向探知能力
さて、森の中のウグイスの鳴き声。
小さな体から、あれだけの大きな音量を、すべての方向に撒き散らす。
あまりに遠くにいれば話は別であるが、たいていの人は、その鳴き声を聞けば、どこらあたりで鳴いているのか、その方向を瞬時に察知することができる。
感覚の鋭い人なら、かなり正確にその方向と距離が分かる。
それが一般的な動物に備わっている「方向探知」の能力である。

直接波の音と、四方八方に広がった音の反射音。
この両者のデータが存在するからこそ、音が到来する方向を即座に感知することができるのではないだろうか。
そのデータの高度な演算を、動物は何の苦もなく自動的にやってのける。

オーディオのスピーカーを考えるとき、この「動物の耳の能力」のことを忘れているのではないだろうか。

・不要で不都合な背面放射を閉じ込めるためにスピーカーは箱型になっている。
・平面バッフルは逆位相の背面放射があるので設置に問題がある。
・平面型スピーカーも上と同じ。

など、いままで「もっともなこと」と思われてきたが、果たしてそうなのか。
平面型スピーカーを長年聴き込んだ私は、「背面放射の音を封殺してはならない」と強く思っている。
i氏山荘の平面バッフルのすばらしい音場感は、背面からの音と渾然一体になってリスナーに届くからこそ、動物の聴覚の特殊能力が働き、各種の音像を明確に結ぶのではないだろうか。

平面型スピーカーや平面バッフルを愛用するユーザーが、ほぼ口を揃える「音場」や「定位」のよさ、そして「リアル感」といった、ほかでは得がたい特長を考えると、平面型スピーカーの音の出方、聞こえ方に関して、どこまで研究されているのか、はなはだ疑問である。
果たしてどうなのであろうか。

平面型スピーカーが「万能」ではない。
箱型もホーン型も「万能」ではない。
が、皆それぞれに素晴らしい音がある。

現在、いろいろな偶然が幸いして、STAX ELS-8XとALTEC MODEL 19という、両対極にあるようなスピーカーを、気分次第で鳴らすことができる状況にある。


i氏の一言
先週、「i氏山荘」を訪問した帰りに我が家に寄っていただいたが、この2種類のスピーカーを聴き比べたあと、i氏が「この2つがあるからいいですね」とこぼされた。
確かにそうなのだ。
それぞれの「いい音」、「持ち味」を聴けばよい。
i氏の一言で、何かが吹っ切れたようないい気分になった。

i氏山荘では、昔の国産20cmシングルコーンSPが、実に驚くべき音を出した。
その素晴らしさをどのように表現すればよいか、そのことを「i氏山荘」の日記で、ちょっとがんばってみたいと思います。



本日の日記は、かなり長くなってしまいました。
そのため、スピーカー端子の話や、複数台のメインアンプと複数台のスピーカーシステムとを、自由に組み合わせて楽しむ話などは、後日、タイトルを改めて綴りたいと思います。

(「コンポ(3の2)MAGNEPAN平面スピーカーの音がSTAX ELS-8Xを救った」 おわり)

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コンポ(3の1)ALTEC MODEL-19編/愛用スピーカーたちの横顔 [オーディオルームのコンポーネントたち]


今日は「これ」を聴きたい気分
今日の日記は、私のオーディオ部屋のスピーカーたちについて綴ろうと思います。
さて今、何を聴きたい気分ですか?
音楽が、人の感性や感受性の上に成り立つものである以上、そのときの心の状態によって、聴きたい曲や種類などは、あれこれと揺れ動きます。
音楽など聴きたくもない、といった時期が長く続くこともあるし、逆に寸暇を惜しんで「あれを聴きたい」と、何か特定のものを憑かれたように聴きまくることもあるでしょう。



*平面3種+ALTEC_DSC_9555.jpg*平面3種DSC_9594.jpg

                  <写真1:オーディオ部屋の愛用スピーカーたち>
**左右端・ALTEC MODEL 19、中央最背後・STAX ELS-8Xコンデンサースピーカー、黒い平面・MAGNEPAN MG1.7マグネプレーナー型、白い平面・MAGNEPAN SMGa同、の各愛用スピーカーたち**



今日のスピーカーは「あれ」でアンプは「これ」
音楽の歴史は、いわゆる「古楽」以降に限定しても長い歴史があり、ジャンルは3次元的全方位に広がっています。
そのときの気分と、聴きたい音楽。
それに応えるには、「音の出方や鳴り方」が異なる複数のメインアンプと、複数のスピーカーの組み合わせを選びたくなります。
そのためには簡単な操作で、任意の組み合わせが選択できるようにしておけばいいだろう。
と、そんな考えで、私の広くもないオーディオ部屋には、平面型や箱型など複数のスピーカーと、管球式や半導体式の複数のメインアンプを押し込めてあります。
そしてオーディオシステムとして、それらを任意に組み合わせて鳴らすことができるような仕掛けをして(大変わかりやすい原始的な方法ですが)とっ替えひっ替え楽しんでいる次第です。
(実際の配置は、聴くためのスピーカーを前に出し、鳴らさないスピーカーは背後の壁に押し付けておきます。そのため、各スピーカーは、押せば床を滑るようになっています)

そういったスピーカーシステムの中で、今日の日記は、ALTECの数多(あまた)の銘器の中で、意外に知られていない傑作ホームスピーカーシステム「MODEL 19」にスポットライトを当ててみたいと思います。




意外に知られざる傑作機 ALTEC(アルテック)MODEL 19

これは本当に素晴らしいスピーカーシステムである。
家庭用として、音響的に第1級品であり、それもハイエンドに属するクオリティーだと思う。
このMODEL 19と出会えて、この上もない幸せであるが、ほんの少し状況が違えば、このスピーカーと生涯出会うことがなかったかもしれない。
「怪我の功名」とは、このことだろう。

「怪我」とはSTAXのコンデンサースピーカーのことである。
過去・現在を通して、臨場感溢れる超1級の再生音と、作りの精緻さを備えた唯一無二の貴重なスピーカー。
そのELS-8Xを、不用意な環境と使い方で劣化させてしまった愚かな私。
その代替え機種として選んだのが、この1976年(昭和51年)に発売されたALTEC MODEL 19である。
写真2のような上下2つの箱に、416-8B(38cmウーハー)と、811B(セクトラルホーン)+802-8G(タンジェリン・フェイズプラグ・ドラーバー)を組み込んだ2Way。
箱は上下が分離しているように見えるが、内部は空洞でつながっている。



*19+NS1ネット_DSC_9712.jpg*19+NS1_DSC_9724.jpg
*19+NS1ネット正面DSC_9740.jpg*19+NS1正面_DSC_9726.jpg

                 <写真2:ALTEC MODEL 19とYAMAHA NS-1>
**MODEL 19は1976年、今から40年近い昔に登場したものであるが、なかなか現代的なデザインであり古さを感じさせない。格好がよく、部屋に置く喜びを感じるほどの存在感がある。右脇のNS-1については次回(このNS-1、本当は右側のものでした。スミマセン)**


2Wayであるが高域はタンジェリン・フェイズプラグでカバー
MODEL 19は、ホーンのドライバーを、タンジェリン・フェイズプラグ(写真3)を採用することにより、高域を20KHzあたりまで延ばして、2Wayで全帯域をカバーしている。
フェイズプラグの狭いスリットの効果により、高域の再生帯域が延びる。
それでも不満があるのか、オーディオ仲間はツイーターを付けろ、と勧めてくれるが、私には何も付けない方が「しっくり」する。
「かえるの息子」(かえるの子はかえる、の意味)は自分のALTEC MODEL 19にfostexのスーパーツイーターを付けた(詳しくは当ブログ内の「口伝(1)オーディオ事始」の写真7参照)。
そのツイーターを当オーディオ部屋で試してみたが「利」と「害」がある。
私はその「利」より、せっかく一箇所(いわゆる「口」が小さい)にまとまっている音源が(後述)、少し散漫になるように聞こえる「害」を嫌った。

MODEL 19は、高域まで延びた802-8Gドライバーとの2Wayを構成するために、クロスオーバーは高めの1,200Hzに設定されている。
つまりこのスピーカーシステムの再生音の音色の「責任」は、大部分を416-8Bウーハーが受け持つことになる。
はいはい、どうぞどうぞ、Welcomeである。
416-8Bウーハーが軽量コーンの傑作であり、その軽さのおかげで2000Hz以上まで十分に対応できるはずである。
事実その結果は申し分なく、ローからハイまでシームレスに境目のない最上級の音が響き渡る。



*ドライバカバーを開くDSCN1477.jpg*タンジェリンFPアップDSCN1474.jpg

<写真3:タンジェリン・フェイズプラグにより高域を20KHzあたりまで延ばした802-8Gのフェイズプラグ部>
**写真左の黒いフレームで囲まれたダイヤフラム・アッセンブリーを取り外すと、オレンジ色のタンジェリン・フェイズプラグが現れる。輪切りにしたオレンジに似ているため「マンダリン・フェーズプラグ」と呼ばれることもあったらしい**


マンダリンオレンジ/タンジェリンオレンジ
「タンジェリン・フェイズプラグ」という名称の由来を、私は正確には知らない。
しかし柑橘系フルーツのマンダリン・オレンジとタンジェリン・オレンジを比べた場合、それらの熟した果実の色が橙色を中心に、マンダリンが黄色に寄り、タンジェリンが赤に寄っていることから、現物の色がマンダリンよりはタンジェリンに近いじゃないか、との命名かもしれない。
あるいはまたこんなことか。
ALTECには往年の傑作、同軸2Wayの604シリーズがあり、そのツイーターのドライバーにはタンジェンシャル・フェーズプラグが使われていた。
そのタンジェンシャルの「タンジェ」と、マンダリンの「リン」とを合わせて「タンジェリン」としたのかもしれない。
音響には関係なく、どうでもいいことではあるが、誰かが、何かを思って名付けたに違いない。


JBL・WE・ALTECフェーズプラグ訴訟合戦
余談であるが、JBLの古い時代のシャーラーホーン用コンプレッションドライバーには、ALTECのタンジェリン・フェイズプラグと同様に、高域を延ばす効果のある、同心円状スリットのフェーズプラグが使われていた。
その「同心円スリット」の特許をめぐって、WE(Western Electric)グループと係争になり、さらにはALTECグループの企業買収などとも絡んで、複雑な争いが繰り広げられた。
フェーズプラグにおけるJBLの同心円状スリット、ALTECの放射状スリットには、多くの興味深いドラマがあった。
WE・JBL・ALTECのオールドファンにはよく知られた話ではあるが、若い方で興味があれば、それらの歴史を紐解いてみることをお薦めしたい。


入手したMODEL 19が鳴らない
さて、話を私のALTEC MODEL 19に戻そう。
MODEL 19の選択は、音の現場でクラシック系の音楽番組などを多く手掛けてきた同僚の薦めがあって即断した。
うまい具合に程度のいい出物があり、即刻getすることができたが、これがなかなか鳴ってくれない。
もちろん音はちゃんと出る。
床を這い、棚のガラスをビビらせる重低音も出るし、妙なる高音も聞こえる。
しかしその音に「音楽を聴く喜び」がない。

長期間、冬眠状態にあったことも考えられるため、私が部屋にいない時には、スピーカー・エージング用の音源を大音量で鳴らすなど、しばらく時間をかけてみた。
新品なら、物によっては1年以上も本来の音が出ない場合もあるかもしれないが、中古品なので、1・2週間我慢すれば、少しは変化があるだろう。
と思っていたが、残念ながら全然変わらない。
MODEL 19に使われている各ユニットは、すでに十分過ぎる定評があり、こんな音ではないはずである。


怪しいのは2Wayネットワーク
この「味のない音」の原因で、もっとも怪しいのは、ウーハーとホーンとを分けるネットワークであろうことは誰もが想像する。
MODEL 19に使われているネットワーク・ユニットは「N1201-8A」である。
これは2Wayスピーカーシステムを、2つのアッテネーターを使って、あたかも3Wayであるかのごとく低・中・高の3つの周波数帯域を調整できるように設計されている。
ここではその話しに詳しく踏み込まないが、アッテネーターのガリもあったことから、すべてのコンデンサーとアッテネーターを交換することにした。

抵抗は交換しない。
写真のようにセメント型であり、おそらく劣化はなく、音質的にも特段の不都合はないと判断した。
アッテネーターは、中域用(下のツマミ)32オームと、高域用(上のツマミ)8オームが使われているが、8オームにはfostexのR80B(8オーム) 、32オームには同R82B(16オーム)を使った。
中域用の32オームに対して16オームを使ったが、このアッテネーターを「12時」以上に回すことは、音のバランス的にあり得ないので16オームでOKとした。
ということなので、写真2(ツマミの位置は普段使用しているポイント)の下側のアッテネーターの回転位置は、オリジナル(32オーム)のアッテネーターの2倍の角度に回されていることになる。
(写真4の近接写真の回転位置は普段のセット位置ではない)。



*19アッテネータDSCN1507.jpg*SPネットワーク.jpg

               <写真4:N1201-8Aスピーカー・ネットワークとその回路図>
**パネルには「STUDIO MONITOR SYSTEM」と書かれているように、海外ではプロの現場でも使われたようである。回路図は抵抗のギザギザや、コイルのクルクルがうまく描けないので、適当なシンボルで描いた。悪しからず、です**



*NWオリジナルDSCN1236.jpg*NW交換済DSCN1510.jpg

            <写真5:ネットワークのすべてのコンデンサーとアッテネーターを交換>
**左側が交換前のオリジナル。右側が交換後。新アッテネーターの軸が長すぎるため、前面パネルと基板との距離を金具で延長した**


コンデンサーとアッテネーターを交換した結果
これらを交換して音を出した瞬間に、今までとは「別世界」が眼前に広がった。
身動きもできず、しばし聞き惚れる。
音に「クセ」が少なく、しなやかで、それでいて弾みがあり違和感がない。
低音は、その最低音まで何の苦もなく軽々と出る。
床が振動する重低音も、感覚としては軽々とフワッと出る。
低音の音色もきちんと表現する。
そして何よりいいな、と思うのは「箱の音」が気にならない。
もう一つ、このスピーカーの大変いい点であるが、ウーハーとホーンとの音のつながりが見事に一致している。
低音から高音までシームレスに1点から聞こえる。
まるで1つの点音源から出ているようであり、ウーハーとホーンの分離を確認しようと意識して聞いても、分けることがむつかしい。
双方のスピーカーユニットの相性の良さもあると思うが、ネットワークの設計がよく練られているのだろう。


ネットワークは鉄心入りのコイルですが何か?
スピーカーのネットワークに興味を持っている方であれば、写真5のネットワークユニットN1201-8Aのオリジナルを見て、「こんな安っぽい「C」と「L」を使っているのか」と驚かれたのではないかと思う。
昨今の、「スピーカー・ネットワーク用」との触れ込みの「高音質コンデンサー」、「高音質コイル」を見慣れた目には、ひどくプアに見えるかもしれない。
いまどきの「常識」は、高音質ネットワークの「C」にはフィルム系、「L」には「空芯コイル」や「箔巻きコイル」が当たり前なのであろう。

おまけに、このネットワークの回路を眺めれば、「このようにゴタゴタした回路を挿入するなど、いいことはないに決まっている」と誰もが思う。
私も強くそう思う。
ところが、この「音質劣化器」のようなN1201-8Aネットワークを装着した MODEL 19から、実にバランスのいい音響が、きれいな泉のように迸り(ほとばしり)、滔々と(とうとうと)流れる大河のように圧倒的な音圧で迫ってくる。
先ほどの「1点から出るような」小さい「口」も素晴らしい。


ネットワークの改造で音質は向上するか?
現状のMODEL 19の音は素晴らしいが、N1201-8Aネットワークの作りが「いかにも古い」ため、「このネットワークを改良すれば、1段も2段も上の音が、簡単に得られるのでは」という錯覚的誘惑に駆られる。
私も机上で、ああしてこうしてと、ネットワーク改造案を練ったことがある。
しかし、コンデンサーとアッテネーターを交換したMODEL 19の音を聴き込むにしたがい、ネットワーク改造の意欲が、どんどん減退していった。
つまり、改造する必要性を感じないほど「すっかり出来上がっている音」のように思えてくる。

現状のMODEL 19の音は、「ゴタゴタ回路の」N1201-8Aだけでなく、ネットワークそのものの存在を、まったく感じさせないほど素直で自然である。
N1201-8Aの大改造、あるいは新規設計製作に関しては、大変興味はあるものの、現状を超えるための難易度は相当高いのではないかと推察する。
改造を試みても、私の技量では泥沼にはまり込み、もがいただけで終わるか、それとも本当は改悪になっているのに、良くなったと自己満足して終わるか、どちらかだろうと、後ろ向きになってしまった。
「鉄心入りのLは音が悪い」などと、一概には言えないのではないだろうか。
この、一見「音質劣化器」のように見えるN1201-8Aネットワークを付けたMODEL 19を聴くと、「鉄心入りのL」が必ずしも悪くはないことを確信させられる。

MODEL 19のオーナーの中には、このネットワーク大改造を試みた方もおられるのではないかと思う。
真の意味で成功された方もいるに違いない。
それはきっと「目が覚めるような音」になるだろう、との確信めいたものがある。




次回の日記は「平面型スピーカー」編と、複数SP×複数アンプ 組み合わせの原始的仕掛け、の予定です



*17真横DSC_9671.jpg




*平横3台DSC_9659.jpg

                  <写真6:平面型スピーカーたちの横顔>



1987年、昭和62年は、国鉄が民営のJRとなり、また電電公社も民営のNTTとなった年。
私はその年、これを越えるものには生涯出会わないであろうスピーカーを手に入れた。
STAX ELS-8X、大型コンデンサースピーカーである。
ELS-8X入手のエピソードは本当に不思議であり、なにか天の力が働いたのではないかとさえ思える。
そしてこの貴重なスピーカーであるELS-8Xを、不用意な環境と使い方で劣化させてしまった。
非情にも、STAXのコンデンサースピーカーの発音ユニットの修復は不可能であり、10年近くの間、狭い納戸に捨て置かれていた。
それを「何としても甦らそう」と、修復への挑戦の意欲を掻き立てたのが、マグネプレーナー型のMAGNEPAN MG1.7の音であった。
平面型スピーカーの音、それは極めて軽量のフィルム・ダイアフラムから出る音である。
それらの音には何か共通した、他の方式では得られない、出すことができない魅力がある。

そういった気持ちを呼び起こしてくれた「大恩人」がMAGNEPAN MG1.7であった。
MG1.7の音による覚醒。
それは昨年の今頃のことである・・・。



*2台バナナDSC_9678.jpg*4分配斜DSC_9753.jpg

          <写真7:複数スピーカーと複数メインアンプとの任意組み合わせの「種」>
**ALTEC MODEL 19にも写真2のように、2ピン・バナナプラグ端子を、本体の右脇底部に設けた。本来の端子は、本体の底についており、横倒しにしなければスピーカーケーブルの脱着はできない**



冒頭部の話の種を明かせば
プリアンプからの1本のバランンス出力を、4組のメインアンプに同時に分配するタムラ製作所製の「音声信号4分配器」(プロ用)と、それぞれのメインアンプに接続されているスピーカー・ケーブルの先端の「2ピン・バナナプラグ」。
そしてすべてのスピーカーに用意された「2ピン・バナナプラグ」端子。

私は、バネを利用した端子を信頼しており、好んで使っています。
JBLにもALTECにも、バネ入りの一見チャチな端子が使われていますね。
ところがどっこい、この端子の信頼性が非常に高い。
そういった話もしたいと思っています。


( 「コンポ(3の1)ALTEC MODEL-19編/愛用スピーカーたちの横顔」 おわり )

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コンポ(2)私のPCオーディオと青春デンデケデケデケ [オーディオルームのコンポーネントたち]

今回の日記は、「PCオーディオ」について綴ります。
「アナログよりもアナクロだね」といわれている私ですが、一応、PCオーディオも、PCのUSBポートなどが普及する以前から細々ながらやっていました(^-^)。

そもそも「PCオーディオ」とはなんでしょう。
私のイメージでは「パソコンを利用してピュアオーディオをやること」ぐらいに考えています。
と、その前に「ピュアオーディオ」って言葉もよく分かりませんね。
この言葉、私の解釈は「純粋オーディオ」といった感じではありません。
私の感覚では、

「ピュアオーディオ」とは、「オーディオを真面目に、熱心に追求すること」。

だと思います。
つまり「オーディオに真摯に向き合う」
だから映像に付随するサウンドトラックの音も「ピュアオーディオ」の対象です。
MP3に代表されるような、データー圧縮も「ピュアオーディオ」の対象です。
そういったものを排除するよりも、取り込んだ方が、ずっと面白くなると思います。

48Kbpsの最低のビットレートでも人は感動できる
私のPCオーディオのライブラリーに、2012年の2月に録音した、平原綾香が歌う「あいたくて」が収まっています。
NHKのラジオ深夜便の「深夜便の歌」(2012年2月時の)を、ネット配信ラジオ「らじるらじる」から別アプリでダウンロードしたものです。
「らじるらじる」の配信ビットレートは48Kbpsであり、「もう最低」といえるほどの低いレートですが、これをメインシステムできちんと聴くと、

感動します。

48Kbpsでも、人の心を激しく動かすことができる、という一例です。

さて私のPCオーディオですが、現在は、CDを直接聴く場合も、プレーヤーソフトの「WINAMP」を起動して、PCに装備されているブルーレイ・ドライブで再生しています。
その方が現有の3台のCDプレーヤーより、一段上の音がします(もちろん同一のD/Aコンバータを使って)。
また、いわゆる「my favourite music」は、PCにデジタルアーカイブされつつあり、普段はたいてい、PCのライブラリーから「WINAMP」で聴いています。
PC上の再生ソフトは、foobar2000を始め、いくつかを遍歴しましたが、いつも落ち着き先は、結局、総合的な観点からWINAMPに帰ります。

デジタルアーカイブの作業中にお宝テープを発見
そしてもう一つの、PCオーディオに関係するお話。
過去、FM放送や衛星PCM放送などを録り溜めた、何百本ものDATテープの中から発見した「青春デンデケデケデケ」です。
DATをPCにデジタルアーカイブする作業中に見つけました。
1991年の直木賞に輝いた同名の青春小説の著者、「芦原すなお」をゲストに招いたNHK FM午後の人気番組、1993年4月21日放送「ポップスステーション」のエアチェックテープです。

青春デン3点(縮)DSC_7925.jpg

<写真1:「青春デンデケデケデケ」の文庫本と映画のDVD、それとDATテープ>
**本は、直木賞本(元原稿の短縮版)と、ノーカット版とがある。写真はもちろんノーカット版。映画の監督は大林宣彦。**



DATテープ(縮)DSC_7938.jpg


<写真2:著者の「芦原すなお」をゲストに招いたNHK FM「ポップスステーション」の録音テープ(DAT)。番組内容はFM誌「FMfan」の番組表の切り抜き。最下段に「芦原すなお」の名がある>



青春デンデケデケデケ(縦縮ト).jpg




<写真3:DVDのパッケージ裏表紙>
**興味を持たれた方々、たぶんベンチャーズ世代の方々の参考までに**








「青春デンデケデケデケ」は、ベンチャーズ世代や、あまたのベンチャーズバンドを結成している面々にはよく知られた直木賞本であり映画でした。
私もその世代の一人です。
しかしその当時、著者をゲストに迎えたFMの2時間番組を聴いた方は、そう多くはないでしょう。
聴いたとしても、たぶん覚えていないでしょう。
ましてや、それを完全エアチェックしたDATテープが現存するなど、私自身もまったく覚えがない、うそのような話です。
発見以来、この録音は何回も聴いていますが、60年代にラジオ関西の電話リクエストで育ったOldiesファンの私は、聴くたびにたまらなく嬉しくなります。
本の内容にまつわる曲を、ベンチャーズの「パイプライン」に始まり、再度シャンティーズの「パイプライン」で締めくくるまでの13曲を、DJの宮本啓と著者との掛合いとともに、2時間たっぷり楽しめます。

と、このように「青春デンデケデケデケ」を発見することになった作業中のデジタルアーカイブが、今日の日記のもう一つの話です。
※(衛星PCM放送のミュージックバードは、数年前にサービス終了になってしまった)

WINAMPポップリスト(ト赤).JPG<PC画面1:WINAMPで開いたライブラリの「洋楽ポップス」のリストの一部>
**DATテープをデジタルアーカイブした中の、ジャンル「洋楽ポップス」の一部。「青春デンデケデケデケ」は1993年4月21日の16:00時に録音したもので、録音長120分との情報を付けてある。「ゲスト藤原竹良」とは著者の本名。このリストの聴きたいものをダブルクリックすると、WINAMPによる再生が始まる**



録り溜めた放送音源を聴きたい
さて、20年以上も前から録り溜めたDAT(digital audio tape)のカセットを詰め込んだダンボール箱が数個ある。
こんなに沢山、何を思って録ったのか、今思えば後悔している。
もっと的を絞って録ればよかった。
たぶん現役を引退して暇になったら聴こう、などと甘く考えていたのだと思う。
ひたすら録っていた頃も、「全部聴くのは無理だろう」とは薄々感じていた。

しかし「音楽放送」には、CDやレコードでは絶対に真似のできないところがある。
たとえば、NHK FMで毎週月~金の19:30から始まるベストオブクラシック。
NHK ONLINEのページにあるこの番組の能書きには「世界中の上質な演奏会をじっくり堪能する本格派クラシック番組」とある。
演奏会のライブ録音は、CDなど他のメディアでも珍しいことではない。
しかし、演奏家や音楽関係者などのゲストを呼んで話を聞いたり、音楽放送作家が要領よくまとめた原稿を番組司会者が上手に語ったり、こういったところは、「放送」の独壇場である。
なによりも実況録音は、会場の拍手やざわめきなど、場の雰囲気の録り方がまったく異なり、臨場感がすばらしい(音質のことではない)。
逆にそれがウザイ、などと思う方もおられると思うが、音楽のジャンルにかかわらず、そういった放送の場における話は、他では聞けない興味ある内容であることが多い。

テープの山、分別しなければゴミの山
さて、自適生活になって分かったが、ダンボールに詰め込まれたDATカセットを一つひとつ取り出しては聴く、などと悠長なことをやってるほどの暇はない。
時間はたっぷりある、と思っていたが、なぜか暇はさほどない。
そこでテープの内容が分かっているものから、優先順位をつけて(つまり自分好みの順に)、どんどんデジタルアーカイブ化していこう、と決心した。
そうでもしないと、整理かつかない。
とにかく「整理」しないと聴くどころではなく、手がつけられない。
家庭ゴミ、分別すれば「資源」、しなければただの「ゴミ」。
それと同じである。
デジタルライブラリーの構築に、最近のパソコンは大変な威力がある。
HDユニットの容量も、1T(テラバイト)2Tは当たり前になった。
処理速度が高速なので、音楽データの編集も、なんのストレスもなくサクサクできる。
PCオーディオ環境を充実させるための各種のソフトも豊富になった。
まあ、なにはともあれ「ゴミ」からの脱却が先決である。
そこで昨年の暮れあたりから、猛然とDATテープのデジタルアーカイブ化を開始した。

WINAMPクラシックリスト(新ト).jpg



<PC画面2:WINAMPで開いたライブラリの「クラシック」のリストの一部>
**このリスト上では、1992年録音が一番古い。「Bof C」は「ベストオブクラシック」、「朝バ」はFMの長寿番組「朝のバロック」のこと。録り溜めた中では「朝バ」のテープがダントツに多い。右端の欄は録音時間長**






私の「PCオーディオ」黎明期
私がPCでオーディオ的なことをやり始めたのは、まだUSBが普及する以前、iPod、iTunesが登場する前の時代であった。
当時、PCで「音」を扱うには、大抵の場合、「サウンドボード(カード)」が必要であった。
PCのマザーボードには、デジタル入出力の端子など付いていなかった。
CDプレイヤーの光出力や、その他の音源のデジタルデーターなどをPCに取り込むには、光入力端子などのデジタル入力端子が付いたサウンドカードを必要とした。
ところがこれが曲者であり、ほとんどのサウンドカードは(そのドライバーとも絡むが)、デジタルの入力データを、そのバイナリコードの変化なしにPCに取り込むことができなかった。
出力も同じであった。
それを反映して当時のネットでは、音源のデジタルデータをいかにして「1対1」、「100%同じ」、「1ビットの変化もなしに」、PCに取り込み、またそれを出力するか、のノウハウについての記事で賑わっていた。
サウンドカードの改造や、自作もしなければならなかった。
そういった時代であった。

PCオーディオの絶対条件「1ビットたりとも変化なし」
今現在でもPCオーディオの世界において、ユーザーの意識から「抜け落ちている」のではないかと危惧される、たいへん重要なことがある。

外部の音源のデジタルデータを、「1ビットの変化もなしに」PCに取り込み、また、取り込んだデジタルデーターを、「1ビットの変化もなしに」PCから出力する。

という当たり前のことが、実はWindowsマシンでは、そう簡単にできない。
何をいっているのかと驚くほどの「とんでもない話」であるが事実である。
デジタルオーディオにおいて、データーの意識的な操作や加工は別として(ミキサーソフトで音を操作したり、MP3などで圧縮したりなどは別として)、何かの装置を通ったらデーターが変化した、などは論外である。
データーの欠損が発生したとか、化けたとか、データーが壊れたといったことではない(それは障害、故障、設備不良の範疇)。
変化したデーターを復調して(D/A変換して)、その音をちょっと聞いただけでは分からないデジタルデータの変化である。
データー的には矛盾が発生したわけではない。
具体的には、音量の変化とか、音質調整のイコライザーが入ったとか、サンプリングレート・コンバーターが介在したとか、そういった意味でのデーターの変化である。

ところがこの点に無頓着な方が意外に多い。
多分、デジタルだからそのようなことは起こらない、と頭から信じているのだろう。
それは無理もないことだと思う。
しかしWindowsのPC上で、一般的な入出力デバイスとサウンドソフトを使う場合、よほどその点に留意しないと「データーの同一性」は保障の限りではない。

PCオーディオの黎明期、PCを十分なクオリティーでオーディオに利用しようとしていた挑戦者たちの第一の目標は、この「データーの同一性」の実現に集中していた。
そこが保障されなければ、PCオーディオの成立などあり得ない。
そこがPCオーディオの基本中の基本であるはずだ。
これほどの最重要課題であるにもかかわらず、Windowsマシンでは、特別な細工をしなければ実現できないのである。
少なくともWindows xpまではそうであった。
それ以降はまだ調べてもいないし、検証もしていない。
(今現在、私のPCオーディオ環境を、Windows7へ移行するために、PCとも更新作業中です)


ASIOが解決した「データーの同一性」
「ASIO」(アジオ:Audio Stream Input Output)とは、ここではとりあえず、WindowsのMME(Multi Media Extension:オーディオデバイスのドライバ・インタフェース)をバイパスする仕掛け、と考えておけばいいと思う。
ASIOを適応した場合、「サウンドとオーディオデバイスのプロパティ」などのサウンドやオーディオに関するソフトは、そのレベルコントロールをはじめ、左右のバランス、音質を変えるイコライザーなど、各種の調整が無効になる。
その代わりに、Windows内で、データーの変化は起こらない。
またDTM(デスクトップミュージック)の世界では、「レイテンシー」と呼ばれる「音声信号の入出力の命令を出してから、それが実行されるまでのタイムラグ」が大きな問題になる。
そのレイテンシーを短縮するためにもASIOは必須の機能である。

ASIOによってPCオーディオが成立する
WindowsマシンによるPCオーディオは、「ASIO」の登場によって、ようやく成立したといえる。
ASIOを導入することにより、従来ほど苦労をすることなくPCオーディオの実現が可能になった。
私が最初に使ったUSBオーディオインターフェースは、YAMAHAの「UW10」である。
これには従来の通常のドライバーと、ASIO対応ドライバーとが提供されており、必要であればASIO対応USBインターフェースとして動作させることができる。
UW10の電源は、USBポートから供給を受けるようになっているが、私はこれをAC100Vで使えるように電源部を組み込み、さらに光対応のみであった入出力に、コアキシャル出力を追加して、アルミダイキャストのケースに入れる改造を行った。
この「UW10改」は、現在、外部からのS/PDIF形式のデジタルデータをPCに取り込む際に使っている。

UW10(縮)DSC_7916.jpg


<写真4:改造版YAMAHA UW10 USBオーディオインターフェース>
**AC100V用電源と、同軸出力部を組み込み、アルミダイキャストのケースに入れた**




ASIO化後の高音質に驚く
このUW10改、最初のうちは通常のドライバーで動作させていた。
そしてiTunesのライブラリーなどを再生していたが、ASIO化に向けてのお勉強などをしながら準備して、その見通しがついた時点でASIO化を試みた。
再生プレーヤーは数ある中でも大手老舗のWINAMPを使っていたが、それをASIO化した。
UW10はYAMAHA純正のASIOドライバーが提供されている。
あれこれやったあげく、USBインターフェースと、再生プレーヤーのASIO化は成功した。
いよいよASIOを導入したPCの最初の音出しである。
こういった時には、試聴用の私の定番のCD(PC内にリッピング済み)がある。
音が出た。
ボリュームを上げる。
興奮するほど驚いた。
覆っていた膜が剥がれたように鮮明な響きである。
ASIO化による音質向上が明白であった。
当時はまだまだ「ASIO」について知っている人は少なかった。
オーディオ友達も、このことを知らなかった。
声を弾ませてASIOの成果を語ったことが懐かしい。

USBインターフェースで音が変わる
ASIOの導入により、PCとのデジタルデータの入出力には「1ビットの変化もない」はずである。
それでも音はデジタル機器によって変わる。
2年ほど前であろうか。
当ブログの「甦れSTAX ELS-8X」にちょっと登場した「かえるの息子」が、自分のシステム用にUSBオーディオインターフェースが必要になった。
いろいろ吟味した結果、Phasemationの「UDIF7」というUSB D/Dコンバータ基板を購入して自作するという。
どうも評判がいいらしい。
そこで私の分も買ってもらい、格好よくアルミダイキャストのケースに収めたのを2個一緒に作ってやった。
5V電源はバッテリー駆動にした(理由は音質ではなく、電源装置を組み込むのが面倒だったから)。
このUSB D/Dコンバータの音、これには本当に(またまた)驚いた。
CDの音がこれほどのものとは思っていなかった。
そう思うほどすばらしい音が出る。
ちなみに「UDIF7」はASIO対応であり、そのドライバーには「ASIO4ALL」を使う。
そしてこの「UDIF7」のウリはいくつかあるが、代表的にはクロック同期系が「アイソクロナス・アシンクロナス(Isochronous Asynchronous)方式」であることだろう。

UDIF7(縮)DSC_7887.jpg
<写真5:Phasemation「UDIF7」USB D/Dコンバータ>
**バッテリ駆動なので電圧計を付けた。リチウムイオン電池のすごい性能がよく分かる。最終段階近くまで電圧がほとんど変化しない(動作時の電流が小さいこともあるが)。電池から本体への電源ケーブル(写真の場合はUSBケーブルを使って自作した)は、電源とアースラインが十分に太いものを選ぶほうがよい。この電源ケーブルにより、音質がかなり変わることを確認した(原因は不明)**


データーは100%同じでも音は変わる
これらのUSBインターフェースは、「D/Dコンバーター」と呼ばれるように、音源のデジタルデータの「ある形式」を、「別の形式」のデジタルデータに変換する部分である。
具体的にはUW10もUDIF7も、USB規格のデーターフォーマットを、CDプレーヤーなどの光や同軸出力でお馴染みの「S/PDIFフォーマット」に変換する。
UW10はその逆の変換もする。
これらの「データー形式変換器」が介在することによる音源のバイナリデーターは、1ビットの変化もない。
それはASIO対応で保障されているし、実際に検証もした(フリーソフトのバイナリデータ比較ソフトがいくつか入手できる)。
それでもデジタル機器による音の違いは明確に存在する。
デジタルオーディオの根底に潜むこの原因については、今、解明されつつある段階と思っているが、その一つのヒントが、先の「UDIF7」のウリであるクロック同期系の「アイソクロナス・アシンクロナス方式」にあるにだろう。


PCオーディオの構成(B5).jpg


<写真6:現状の私のPCオーディオ基本構成図>
**この簡単な図を描いてみて、改めて思うのは、「PCオーディオは、USB D/DインターフェースとASIOが肝」ということを痛感する**





PCでデジタルライブラリーを構築
アナログが好きでも、デジタルの進化はありがたい。
実にありがたい。
PC内に、音源のデジタルライブラリーを、いくらでも(容量的に)、構築することができる。
みみっちく、WAV形式をMP3形式に圧縮して・・などと思い悩むこともない。
CDであれば16ビット 44.1KHz、DATであれば16ビット 48KHz(44.1KHzや32KHzも可能)のPCMを、そのままの形式で、遠慮なくどんどんアーカーブしていくことができる。
昔なら届かぬ夢であった。
音源をうまく整理してデジタルアーカイブしておけば、そのライブラリは、聴きたいものを探し出す時のストレス、イライラを解消してくれる。
いま、その夢のような時代になった。

驚異のFPGAデバイス
デジタルによるブレークスルーがやってくる予感
私が好きであったFM放送の情報誌が店頭から姿を消して久しい。

FMレコパル   (1995年休刊)
FM STATION (1998年3 月休刊)
FM fan     (2001年12月休刊)

「エアチェック」という言葉。
若者は知らないだろうし、もう誰も必要としない。
ところが1年ほど前、先進デジタル技術でFMチュナーを実現した基板を入手した。
何処からか、「かえるの息子」が完成品とキットとの2種類を購入してきた。
「FPGA FM STEREO TUNER」なるものである。
FPGAとはfield programmable gate arrayのことであり、FMチュナーを実現しようと思えば、このデバイスのプログラミングにより、FMチュナーに化けさせることができる。

バラック建てでNHK FMを受信してみる(受信はプログラミングによるプリセットで固定される)。
唖然として言葉にならない。
私がDATにせっせとエアチェックした時に使ったチュナーは、当時のYAMAHAの最高級機「TX-2000」である。
今も現用機であるが、これがまるで激安ラジカセの音のように思える。
音の締りがまったく異なる。
本当に凄い!。
FPGA恐るべし。

デジタルの進化には、こういうことも起こる。
いつかはオーディオの世界にも、思いもよらなかったブレークスルーが襲ってくるかもしれない。


PC組み立て(縮)DSC_7837.jpg

<写真7:ついに、ようやく、PCオーディオのPCとOSを更新中>
**オーディオアンプと混同して、筐体は大きくて堅牢、電源はめいっぱい大容量。ちょっとやりすぎて後悔です。なさけなくも「かえるの息子」に組んでもらっている**





アナログはたまらなく好きですが、今後のデジタルに大きな期待を寄せるアナクロの私でもあります。


(コンポ(2)私のPCオーディオと青春デンデケデケデケ おわり)

(第1回)OTARI BPL-10「円盤再生機」 [オーディオルームのコンポーネントたち]

友人から「ブログ表紙のターンテーブルは何だ」と聞かれました。
回転機部分とトーンアームの正体はすぐに分かったそうですが、BPL-??というのは初めて見るとのことでした。
そこで新しいブログテーマ、「オーディオルームのコンポーネントたち」を立てました。
その第1回に、表紙のターンテーブルを回します。
これにも奇跡のような出会いがありました。
なお、「コンポーネントたち」としたのは、オーディオ部屋のシステムとケーブルで結ばれているオンライン機器を対象に、という意味合いです。

容姿に一目惚れ
当ブログの表紙に載せたターンテーブル。
この造形がすばらしい。
Technics SP-10 MK-ⅡAの清楚なデザインと調和したコンソールの形。
これほど美しいと感じるコンソール型ターンテーブルを見たことがなかった。

(拡大できます)
BPL-10プレイ中(拡大用).jpg
<写真1:ブログ表紙の元写真>
**職業病のせいか、VUメーターの類が付いていると安心する。顔色や血圧、脈拍といった、機器の基礎体調を知るにも役立つ**

取扱い説明書にはOTARI BPL-10 円盤再生機とある。
DENONもそうであるが、プロ用ターンテーブルの正式名称は、昔から「円盤再生機」である。
出会いのきっかけはカタログであった。
10年ほど前、偶然目に留まったOTARI BPL-10「円盤再生機」のカタログ。
当時、私が使っていた愛機と同じTechnics SP-10MKⅡAが、そのコンソールにみごとに収まっているではないか。
その瞬間、BPL-10が自室に置かれ、VUメーターが元気よく振れているイメージが浮かんだ。
願望の投影である。
OTARIは名の知れたプロ用・業務用の音響機器や諸設備を中心としたメーカーである。
そのOTARIがターンテーブルをラインアップしていたとは知らなかった。
しかし放送局や録音スタジオ、劇場などからターンテーブルが姿を消してすでに久しい。
現在も製造を続けているわけはなく、在庫などあろうはずもない。

それあります
一目惚れした時期が絶妙であった。
ある日、好青年のOTARIの営業マンを見かけたので、このBPL-10の話をしてみた。
・・なんといきなり「信州のOTARIの工場にある」という。
私はてっきり、機種か何かを勘違いしていると思った。
ターテーブルなど各メーカーとも、もう何年も前に製造を打ち切っている。
今さら購入するところなどはない。
でも実際に「在庫」があるらしい。
今どきあるはずがないものが、なぜ製造工場にあるのか。
その経緯(いきさつ)を簡単にいうと、何年か前、あるところからBPL-10を受注し製造した。ところが納品する段になって話が頓挫した、ということらしい。
工場も、宙に浮いた1台を、いつまでも保管しておくわけにはいかないだろう。
結局、白馬に乗ったおやじが、信州に幽閉されていた美女を、危機一髪のところでさらっていく、というストーリーで、在庫問題は一件落着した。
OTARI BPL-10の最終最後の1台であった。

OTARIのTT&TR(縮小ト).jpg
<写真2:BPL-10。右隣りはOTARIのテープレコーダーBX-55>
**なぜか私は、ターンテーブルでドーナツ盤をかけるのが好きだ。そもそもドーナツ盤が乗って回っているターンテーブルの姿が格好いいと思う。BX-55は2トラック録音/再生と、4トラック再生ができる。どちらもたいへん使い勝手がよい**

Technics SP-10MKⅡA or MKⅢ
我が家に納まったBPL-10には、Technics SP-10MKⅡA(ターンテーブル)と、AUDIO CRAFTのAC-4400(トーンアーム)、カートリッジはこの手の機器のお約束DL-103が付いていた。
AC-4400のダンプ用オイルは、輸送時の漏れを考慮して注入されていない。
また、SP-10MKⅡA本体に付いている大きな四角のSTART/STOPボタンは「はめ殺し」になっている。
そうしないと、あの位置では危険極まりない。
ターンテーブルには同MKⅢのチョイスもあり、またアームは、製造時期によって数種類の変遷があったらしい。
当時すでにMKⅡもMKⅢも、何年も前に製造を打ち切っているので、チョイスなどあり得ないし、新品のMKⅡAが乗せてあることすら奇跡に近い。
OTARIさんには申し訳ないがAC-4400は取り外し、お気に入りのDynavectorのDV505を取り付けた。

プロ用機器は最高に使いやすい
レコードプレーヤーやテープレコーダーのように、手先で細かな操作を行うような、慣れや熟練を要する機器は、プロ用機が圧倒的に使いやすい。
我々道楽者は、「静かに針を下ろす儀式」などと言っているが、彼らの職場にそんな遊び心はない。
素早く、確実に操作できる。
もたもたも、失敗も許されない。
緊張の現場で使う機器は、とにかく使い勝手がよくなければ採用されない。
ボタンやスイッチ類の配置、それらを押したとき、動かしたときの指先のフィーリングなども非常に重要であり、メーカーの「程度」を知る尺度になる。
百戦錬磨、戦場切り覚えで到達したのがプロ用コンソールの形であり操作性である。
もちろん我々道楽者が使っても、最高に使い勝手がいい。
ターンテーブルの手元で、ライン出力等の各種操作ができるのは実にありがたい。
そして私は毎回、道楽者の「儀式」も厳かに執り行なっている。

BPL-10の上のミミ(縮小ト済).jpg
<写真3:夜はニャン子にも開放されるオーディオ部屋>
**侵入を阻止すると、入り口のドアの前で何人かがピケを張る。本当に困りものであるが解決策がない・・**


DENON DL-103の真価
誰もがご存知のDL-103。
1965年に、当時の日本コロムビア(デンオンはその傘下)とNHK技術研究所の共同開発により誕生したカートリッジである。
一つのカートリッジを生み出すために組織された開発体制の規模は、海外を含めて空前絶後であったといわれている。
私はNHK技研の隠れファンである。
彼らの、音声・映像・無線・通信等を核とした放送技術の研究開発が、各種産業の振興に果たした功績は、戦前戦後、そして現在もなお継続して計り知れないほど大きい。
さてDL-103であるが、技研が深く関わった作品である手前、まことに恐れ多いことではあるが、どうやっても納得できる音が出ない。
一言でいうと、細部の表情が聞こえず、聴く喜びが湧いてこない。
ターンテーブル、トーンアーム、シェル、フォノイコライザー、ステップアップトランス等々、また、兄弟親戚筋のDL-103R、SR、xx・・・とっかえひっかえ、諦めては再挑戦を繰り返した。そしてギブアップした。
これはこういうものだ。

BPL-10で聴いたDL-103。
体も頭も固まってしまった。
よく聴くLPからマスターテープの香りがする音が出た。
もちろんそのLPのマスターテープなど聴けるものではないが、その香りの雰囲気は想像できる。
DL-103を開発した面々は、きっと、レコードをカッティングする元になるマスターテープの音を聴き、それを耳の基準に置いて、そのテープから作られたレコードを試聴しながら、がんばったのだろう。
その時、そう感じた。
これは言うまでもない当たり前のことかもしれないが、その時、ハッとそう思った。
もう一つ思ったことがある。
国内メーカーの「円盤再生機」は、国内使用では100%、DL-103(あるいはそのモノラル型)が使われる。
その他のものが使われることは、よほど特別な場合以外は決してない。
だからフォノイコライザーを含む信号増幅部は、DL-103に特化した作り込みをしているに違いない。
つまりDL-103で試聴を繰り返し、求める音が出るようにチューニングしていると考えられる。
BPL-10で聴くDL-103の音を、私はそう理解した。
当ブログの別テーマ「i氏山荘訪遊記」における三菱ダイヤトーンP-610も、このDL-103も、
その真価が引き出された時、今までの体験や思い込みを遥かに超えた音響を浴びせられ、しばし固まる。

コンソールの重さと構造が肝
BPL-10のSP-10MKⅡAの音は、私の愛機のものと少し違う。
これも同じ理屈であり、プロ用ならではの作りのコンソールに収めて、つまり然るべき基台に、然るべき方法でセットして、初めて引き出される性能なのだと思う。
まずは重量が物を言うらしい。
全重量はほぼ100Kgある。
意外なのは、ターンテーブル本体が取り付けられているのは四角の分厚い板であり、それが硬めのダンバー材を介して、コンソールの基台に、ただポンと乗せられているだけである。
剛構造ではないところに、何かあるに違いない。
BPL-10のコンソールの構造等については、いずれ、ターンテーブルに関するテーマなどを立てて、当日記に綴りたいと思う。
(ちなみに、ブロク表紙のトーンアームに付いているカートリッジはDL-103ではありません。)

プリンちゃんと211アンプ(縮小ト済).jpg
<写真4:寒いときはこの周りがやけに暖かいニャー>

(第1回 OTARI BPL-10「円盤再生機」おわり)

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